クロネッカーが見た三千世界〈 QK 〉

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side : sgi




────全く、何やってんだか。


そう、呆れたような伊沢の声が聞こえた気がした。



しかしながら、今回ばかりは俺も幻聴の伊沢に賛成せざるを得ない。好きで好きでたまらなかった子がようやっと自身の恋を諦めそうだというのに、背中を押してどうすんだ。





「………ふー、」





────あの後、俺の言葉を聞いたAちゃんは静かに顔を上げ、また静かにこの場を去ってしまった。


……というか、そうするしかなかったのだ。俺は彼女にもう行けと言ったし、空気と声色がAちゃんをこの場から追いやっていて。



あの複雑そうな表情から察するに、きっと彼女は最後まで俺の心配をしていたのだろう。本当にどこまでも優しい子である。




……俺があそこまでお膳立てしてやったのだ、今頃あの子はやっとこさ想い人に自分の思いの丈を伝えているはず。

アイツだって彼女のことを少なからず想っていたはずだ、結果は良好に違いない。






「……」






ふと、星が瞬いた。




────時に、俺が何か別の言葉を掛けていたとして。今のこの状況は何か変わっていただろうか。


彼女が俺のそばで微笑む未来もあったのだろうか。だとしたら俺は何かを間違えて、






………。


………いや、まあ。これでいいのか。



結局あの子が一番幸せになる道ってのはこれだった。好きなヤツと結ばれて、そんで幸せになって。




フィクションでだってそうだろう。これで間違いなくめでたしだし、何より己を犠牲に想い人の幸せを願うヤツが一番かっこいいって相場が決まってんのよ。


誰よりもかっこいいと思われたい人には見向きもされなくとも、いつか誰かが評価してくれんだって。







「………終電、」






ふと思い立ち、ポケットの携帯を確認した。…終電までは思ったより時間がない、早く駅に向かわねば。


数分前まではうるさいくらいだったのに、今や向こうからは何も聞こえない。もうほとんどが帰路についたのだろう、アイツも彼女もその1人だ。





重い、それはそれは重い腰をフェンスから引き剥がす。


あの子はうまくやれているだろうか。きちんと自分の想いをありったけ伝えられているだろうか。






……ねえ、今度こそ幸せになってくれなきゃ困るよ。



臆病を良い人ぶって誤魔化した俺の分まで、末長く。








「………、…お幸せに。」








彼女がそばにいるならば、きっとアイツの新しい道も華々しいものになるでしょう。






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