クロネッカーが見た三千世界〈 QK 〉

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────ごく稀ながら世の学校に恋愛禁止という校則が存在するのは、ソレが「勉学の邪魔であるから」に他ならない。




「……新しいところで頑張るあの人の邪魔をしたくないから、諦めるしかないんです。」




私はその主張に一理を見出さざるを得なかった。

恋は盲目という言葉が示す通り、恋愛が占める脳のスペースは絶大である。そんなこと私が一番知っていたし、何なら今この時も胸が苦しいのはその恋愛のせいで。


あの人は、…… “彼” は、間違いなく今これからが一番大切な時期。

新しい場所へ新しい何かを掴むために羽ばたき、そして新しい環境で新しい自分を築けあげていくのだ。




────そんな中で、どうして私如きが出しゃばれようか？


古い関係の人間にあたる私が彼の心に住まい続けるなんておこがましいにも程がある。面倒臭く、そして後腐れのある女はロクなもんじゃないと相場が決まっているのに。





「……、大丈夫ですよ。…寂しくないって言ったら嘘になりますけど、すぐ立ち直れます。

　仕事もちゃんとしますし須貝さんにも迷惑かけません。だから大丈夫です。」




二度重ねた「大丈夫」はひどく薄っぺらい。…それもそうだ。こうして言葉を紡いでいる今も頭の中はあの人でいっぱいだし、本音は泣き言を垂れている。



……まだ好きなんだとか、叶うことなら連絡先くらいだとか、行かないでほしい、だとか。


決意とは案外ペラついたものだ。簡単に破け、感情に押し負ける。何て私は弱いのだろう。嫌になる。





「………」





────恐らくきっと、須貝さんだってそんなことは分かりきっていたのだ。


だから私の言葉を聞いて更に顔を顰めたのだし、難しい表情で口を結んで押し黙る。何かを伝えたそうな瞳も、生憎私の察するスキルが低いせいで本意を読み取ることができずに。




訪れる沈黙。

重い空気の出所は間違いなく私だった。


中身のない言葉に須貝さんが騙されるはずはないって、そんなこと分かりきっていたはずなのに。








「……Aちゃん。」






虫の、鳴く声。

遠くから聞こえる、先ほどよりは静かになったみんなの声。




何より響く、須貝さんの低い声。







「、……はい？」







生暖かい風だった。


初夏を感じた。





────この夜に既視感を感じるよりも先、須貝さんが口を開いて。








「………無理して強がんないで。


　…………俺が君を諦めきれなくなる。」






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