クロネッカーが見た三千世界〈 QK 〉

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※『拝啓、パスカル先生へ』の続きです

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「何でこんなとこにいんの？」




ふと声を掛けられ、ベランダで月を見上げながら夜風にあたる、だなんて随分と詩的な時間を過ごしていた私は振り向いた。


聞き慣れた声。最近髪の色が変わった先輩────須貝さんは、いつものそれとは打って変わってどうも読み取りづらい表情で佇んでいる。

私は須貝さんに苦笑いを返し、表情で場を繋ぐ間 当たり障りのない回答を探してみるのだけれど。




「……何となく、参加しづらくて。」




結局彼の前では正直なことを話してしまう。何故だろう、須貝さんの人柄のせいかな。




────6月も終わりに差し掛かる今日この日。


普段出勤日時もバラバラなメンバーが一堂に会するこの特別な日には、とある────、……とある社員の、退職祝いのパーティーが催されていた。


少し離れたこの場にも騒ぎ声が聞こえるほどの盛況ぶり。あれでも随分マシになった方で、さっきなんかは泣き声の大合唱で大変なことになっていたくらいだ。



主役の彼はそれを苦笑いと共に見つめていて。

あーこんな時でも変わらないなあって、ちょっとだけ思ったりもしたのだけれど。





「……ほんとにそれだけ？」


「ほんとですよ」




掛けられた疑いの声にくすりとひとつ笑う。

また月を見上げ、けれども何を思うわけでもなかった。残念なことに、月に想いを馳せられるほど私は感受性が豊かではない。





「終電、もうすぐなくなるよ」



「……そうですね。」



「 “アイツ” ももうすぐ帰るって。」



「……」



「……最後に会って来なよ。」





『最後』。須貝さんは随分と大袈裟な言葉を使うなあと、また少しおかしく思った。

別に今生の別れってことでもないでしょう。…私はともかく伊沢さん達は彼の連絡先も知っているし、仲が良いのだから今後会ったりもするはずで。



……ならば、いつかは私も彼と再び会えるわけで。

確かに不透明で未確定な推測だけれど、これが最後ってわけじゃない。



そう噛み砕いた言葉を須貝さんに伝えると、彼はまたヘンな────少なくとも機嫌が良さそうには見えない表情を浮かべた。







「…嘘じゃん。」





ウソ。

はっきりと、まるで私の頭を覗いているんだとでも言うように、須貝さんは言葉を続け。








「……これ以降アイツに会うつもりなんてないでしょ、Aちゃん。」







そう、私の目を真っ直ぐに見つめた。






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