サビ、リザルート、偶々 - 7 ページ29
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河村拓哉との初対面にドラマチック性なんてなく、出会いはクラスが一緒になった高校1年生の新学期である。
ついでに言えば仲良くなったきっかけだって些細で、それでもって非常にくだらないものだった。
春だったか夏だったか、とにかく一学期の社会科の時間のことだ。私がボソッと発したギャグがたまたま隣の席だった河村にウケた。本当にそれだけ。
本当にそんな小さなことだったのだけど、クラス替え直後特有の変な不安感に襲われていた私はちょっとだけ楽になったし、その日から挨拶を交わすようになって。
休み時間も絶えず話が続くようになるまでは早かった。根本的なウマが合うのだと、そう思った。
「…何してんの?福良は?」
あの時の面影を残したまま成長した河村は、顔を顰めて私にそう尋ねる。
まず拳のことを尋ねるあたり、河村は昼頃彼が私に帰りの誘いを持ちかけたところを見ていたのだろう。それで何故ここにいるのかと聞いている。
……いつからだったか。
河村の眼鏡の奥の視線が、嫌に粘っこくて合わせられなくなってしまった。
「まだ仕事残ってるんだって。だからここで待ってるの」
「…オフィスで待てばいいのに。なんで外にいんの?」
「私がいたら仕事の邪魔になっちゃうじゃん」
一拍の間。
通り過ぎる車から漏れていた音楽は、今流行りのポップスだった。
「彼女が仕事の邪魔になるわけがなくない?」
河村の足が、一歩こちらに近付く。
私は反射的に一歩引こうとし、しかしその場に留まった。
───仲が良くなった高校時代の私と河村は、共に勉強をすることも少なくなかった。
志望の大学は同じだったし、得意と不得意がうまい具合に噛み合っていたのも大きかった。実際私は河村がいなければ大学に合格できていたかも怪しいほどで。
日々の学校生活、行事、時折休日も一緒に過ごして。
2年生を終え、3年生を終えかけた3月の日。
河村と共に志望校合格を決めた私はひどく浮かれ、浮かれ、浮かれ、とにかくはしゃいでいたのだ。
「河村、」
高校卒業から何年経ったのだったっけ。
あの桜が幻想的に舞う光景を、私はまだ忘れられない。
「───…私、やっぱり恋愛に向いてないんだね。」
高校の卒業式を終えた、桜が舞う3月中旬。
2人きりの下校中、私は河村に「好きだ」と伝えた。
河村は、「ごめん」と言った。
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noi - すみません。小説とあまり関係ないかもしれませんが、「リザルート」ってどんな意味なのですか?よく似た響きで「リゾルート」という音楽用語はあるのですが、聞いたことがなかったので気になってしまいました。 (2022年11月27日 20時) (レス) @page29 id: f637924c1f (このIDを非表示/違反報告)
橘美桜(プロフ) - 初めまして、最近こちらの界隈にはまった者です。290円さんの書かれるお話がとても大好きで何度も何度も読み返しております。ひっそりと『マリア・テレジアへ賛美歌を』のAルート、Bルートお待ちしております、本当に素敵な作品をありがとうございました! (2021年10月7日 19時) (レス) id: 0e6ceacda8 (このIDを非表示/違反報告)
りべろ(プロフ) - 初めまして…!290円さんの書くお話がとても好きです… 疑問なんですけど、『マリア・テレジアへ賛美歌を』の意味を教えていただきたいです!これからも応援してます! (2021年7月2日 22時) (レス) id: d1e6d9dde1 (このIDを非表示/違反報告)
春(プロフ) - 初めまして!290円さんの書くお話がとっても好きで何回も読み直してキュンキュンしてました、、。最後のお話、涙が止まらなくて朝から泣きながら読んでます、、。続編楽しみにしてます。これからも応援しています! (2020年10月11日 6時) (レス) id: b2b76b14bb (このIDを非表示/違反報告)
早瀬 - 更新お待ちしておりました!綺麗な世界観がとても好きです。これからも楽しみにしています! (2020年7月15日 14時) (レス) id: 0963beb20e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:290円 | 作成日時:2020年3月13日 20時