クロネッカーが見た三千世界〈 QK 〉

Aメロ、不協和音、漣々 - 5 ページ27

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俺がAを好きになったのは、河村に向ける屈託の無い笑顔にやられたからだった。





───倦怠とは、何かしらに飽きて嫌になることを言うらしい。つまり倦怠期とは何かしらに飽きて嫌になっている期間を言う。



俺はAが好きである。だって彼氏だし。告白も俺からで、好きになったのだって最初は俺だった。

だがしかし、友人の証言によるとどうやらAは俺に「飽きて嫌になっている」らしく。



元よりそこまで頻繁に連絡を取るタイプではなかった。

別にあからさまな「バカップル」が嫌なわけでも、また俺が世間一般の基準より冷めがちなわけでも──…まあ、恐らく、ない。



それがAにとっては不満だったのだろうか。

…いやでも、俺が察するにむしろ所謂「バカップル」が苦手なのはAの方だと思うのだけど。だってそういう最もらしいもの、嫌いでしょ。





ちらとAを見た。

Aはいつもの様にこうちゃんに絡んでいる。






「……」






河村は特に何を教えてくれるでもなかった。

ただ俺の目をじいと見て、好意を尋ね、Aと己とがした会話を垂れ流し。そうした後は自然と言葉を終えただけ。聞きたいことも聞けちゃいない。





「構ってくれない」が倦怠に直結する理由なら、何と可愛らしいことだろう。


愛故の倦怠が、隠れた嫉妬が、俺より遥かに彼女のことを知っているであろう河村にさえ見せない感情が、もしAの中に眠るとするならば。





席を立った。


向かいに座る河村が一瞬こちらに目を配って。






「A、」






名を呼んだ。


Aがこちらを振り返る。ついでに絡まれていたこうちゃんも俺を見る。




一瞬の、驚いたような表情。僅かに多くなった瞬き。ほんの少しだけ低い声が「なに？」と尋ね、笑顔とは言えないそれが首を傾げる。







「…あーいや、最近あんまり話せてなかったしさ、」







数年前、桜も散りかけの4月下旬。


河村に向けていたあの笑顔は、未だ俺の方へは一度たりとて向けられていない。







「今日一緒に帰れないかなって。どうせなら夕飯も一緒に行かない？」






好きだの嫌いだのを尋ねるのは野暮である。


わざわざ愛を確かめることなんてしなくたって良いほど、世の中の『恋人』というものには可視できないそれが付き纏っているからだ。






誘いを聞いて数秒、Aは何も言わなかった。


その代わりに小さく頷いた。了承の合図だった。






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