クロネッカーが見た三千世界〈 QK 〉

××しないと出さない俺 - 2 ページ19

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「……出られない部屋？」


「そー」


「いや出られるじゃん。扉開いてるし」




扉を指差し、私は至極真面目にそう言った。だって出られるもん。開いてるし。


しかし伊沢はケラケラと笑い、「ばか、そういうことじゃねーよ。」と一言。…今この場において馬鹿なことを言っているのはそっちだと思うんだけど。





「出られねーの。そういう決まりなの」


「……」


「今俺が決めたから」




どんな横暴だ、それは。



……そう叫んで逃げ出したくもなったが、付き合いが長いが故に私は知っている。

こうドヤ顔でトンデモ理論を展開している時の伊沢は、たとえ誰に何を言われようが自分を曲げることはないのだ。マジで面倒臭い。





「…今私が伊沢に付き合う理由がないんだけど」


「付き合うも何もねーよ。出られねーんだから俺の話聞くしかねーじゃん」


「いやそういうことじゃなくて。私早く帰りたいんだよ、もう夜遅いし」


「だーいじょぶだって、出られたら俺が送ってくし」


「あんた仕事残ってるでしょ！」




…何だコイツ、ここが出られない部屋であるという設定を無駄に忠実に守ってくる。

そして相変わらずのニヤニヤ顔。引き下がる気がない事は嫌というほどわかった。



しかし、こちらもこちらで引き下がるわけにはいかない。そもそもこんな横暴がまかり通って良いはずがないのである。




今度は気持ち目付きを鋭くして伊沢を見やり、いかにも『不機嫌ですよ』という風を装ってじいと見つめてみた。




…と、底の見えない瞳が見つめ返してくる。


口角を緩めたまま首を傾げられ、これは無駄だと私はまた溜息を吐いた。…参った、全く解放してくれない。






「なあ、」





伊沢が、未だ掴み続けている私の服の裾をくいと引っ張った。


縮まる距離。椅子をくるりと四半回転させたコイツは、その居心地の悪い視線を私から逸らそうとしない。







「何で嫌がんの？」






何て質問をしてくるんだと、そう思った。


分かりきったことだろう。先程から私が何を主張していると思ってるんだ。





「何でって、…ずっと言ってるでしょ。早く帰りたいの」


「ウソ」


「はあ？」






途端に、部屋の中の音が消えた。

当たり前だ。伊沢が黙ったから。




もう一度、伊沢が服の裾を引っ張った。




笑顔だ。


底の見えない、笑顔。







「…だって、普段のお前ならごねないで素直に俺の話聞くじゃん。そっちの方が早いからって」






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