クロネッカーが見た三千世界〈 QK 〉

射幸性：愛とスカラー - 2 ページ11

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私と伊沢拓司という男は、同じ学部で学んだ学友だ。



…と言えば聞こえは良いけれど、実のところ時たま2人で飲みにいくだけの同級生だった。



何となく話が合って、何となく空気感が楽で、何となく一緒にいると楽しくて。


そんな大学生特有の『何となく』で恋仲になっては惰性で1年ほどを共にし、また『何となく』別れただけ。私の中の伊沢拓司はそういう人である。



最近だと色んなところで活躍しているという話を聞くけれど、テレビ離れが加速した私が彼の姿を拝むこともなく。





結局3年ぶりに彼の顔を見たのは昨日のこと。


大学卒業から数年、所属していた学部のみんなで同窓会をやろうと誰かが呼びかけた飲み会での話だった。




伊沢は確か二次会から参加したのだったっけ。

個室の居酒屋に現れた彼は有名人だなんだと持て囃されながら私の斜向かいに座ったけれど、かといって何かを話すでもなく。



…で、私はその後飲みすぎて見事に記憶を飛ばし、それ以降の伊沢どころか自分の動向まで思い出すことができないわけだ。




……と、整理してみたはいいけれど。


思い出せば思い出すほどこの状況の意味がわからない。何で私ここにいるの？…しかも何故全裸？


とにかく服を着なければ。このまともな思考の中伊沢が突然寝室にやって来たりなんてしたら恥ずかしさで死んでしまう。



そろりとベッドから脱出。ひとまず早急に下着を付け、次いで慌てて脱ぎ捨てられていたワンピースを着た。…酒とタバコの臭いがする。






……ええと、どうしようか。


いやね、ここが伊沢の家だと分かったからと言ってこの状況を解決できる策が私にあるわけではない。




全裸でベッドの上にいたのは事実であるし、残念ながら私は酔ったら服を脱いでしまうような癖を持っているわけでも裸族でもない。つまりこうなるべくしてなっているわけで。





現在地は伊沢の家、の寝室。


リビングから微かに漏れるテレビらしきものの音から察するに、伊沢は今この家にいると見て良い。





……。

……どうしよう、めっちゃ会いたくない。




マジで会いたくない。マジで。


この状況に環境、私たちの間に何があったかなんて明白だ。どういう経緯でそうなったとて、本当に会いたくない。



…と、喚こうがそういうわけにはいかず。私は彼に会わないといけないわけだけれど。






溜息を吐いた。

深く深く、長く。




……ああもう、何でこんなことになっちゃったんだ。






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