拝啓、パスカル先生へ - sgi ページ43
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「Aちゃんってさ、川上のこと好きでしょ」
「……え゛、」
その反応だけで返事に予想がついてしまうのは、彼女が素直すぎるが故だと思う。
──とある冬の日の朝、オフィスにて。
人の多いこの場所で2人きりになるというのは大変珍しいことだった。
それが今日何故起こり得ているのかと言えば、俺と彼女は揃ってたまたま早く来すぎてしまったというだけなのだけど。
早く来すぎたね〜なんて会話をして、お互いそれぞれ定位置について。
ふと降りた沈黙に、俺は何となく言葉を発した。それまで彼女としてこなかった恋愛の類の話だ。
「…え、な、え?な、んで急にそんな、」
「ッぶふ、焦りすぎでしょ。分かりやす!」
あからさまな反応に思わず吹き出してしまった。やっぱりそうだ、最近様子がおかしいと思ったら案の定。
「見てればわかるよ。Aちゃんすっげえ分かりやすいし」
勘の良いやつじゃなくたって見ていればすぐに気付くだろう。
キョロキョロする回数が見るからに増えたし、川上が隣にいるだけで動きがガッチガチ。おまけに顔も真っ赤と来たら悟らずを得ないでしょう。
「……」
分かりやすいと言われて焦ったのだろう、Aちゃんは真っ青な顔でちらりとこちらを見る。…かわいい。
「大丈夫だって、多分俺以外は気付いてないし。これから気を付けな」
きっと本人にバレていないかが心配なのだ。安心させるような声色でそう諭し、ふふんと笑ってやる。
Aちゃんはほっとしたように息を吐く。何だか一挙手一投足が小動物のようで。
──と、俺がまた口を開きかけたその時。
玄関の方でがちゃりと音がし、何者かの足音が聞こえる。きっと誰かが来たのだろう、2人きりはここで終わりらしかった。
「……あれ、早いですね。おはようございます」
…で、現れたのは今さっき話に上げたばかりの川上。…なんてタイムリーなやつだ。
ちらとAちゃんを見やる。こっちはこっちで言葉を失っていた。挨拶ぐらいしとけって。
「あ、…おはようございます…」
視線で急かしてやれば小さいながらもそんな声。まあ及第点ってとこだろう。
と、川上が一瞬目を見開いた。死角にいたAちゃんに気付いていなかったらしい。
「お、……おはよう」
不自然に途切れた川上の言葉。固まった動き。流れる独特の空気。
ほんのり赤い顔で固まってしまった2人に、これは前途多難そうだなと苦笑いをした。
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山田 - 本当にお話を考えるのもそれを文章にするのもお上手でただただ尊敬です… (2022年10月12日 0時) (レス) @page24 id: 5e51f51780 (このIDを非表示/違反報告)
あー - 河村さんの話がめっちゃ良かったです! (2020年8月21日 18時) (レス) id: e630ce1c5f (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - 290円様。あなたの三角関係系の小説すごく好きです。もちろん他の作品も好きですが、これらは小説としての魅力がずば抜けてます。あとたまに読み手に一抹の恐怖を与える作品も最高です。起承転結がしっかりしていて大好きです。まとまりのない長文を失礼致しました。 (2020年1月29日 3時) (レス) id: e047a9674f (このIDを非表示/違反報告)
むー - 好きすぎて更新されるたび心の中でガッツポーズしております。これからも楽しみにしてます…! (2020年1月22日 21時) (レス) id: 1dbbe6e605 (このIDを非表示/違反報告)
めろぱん - コメント見て頂けたようで嬉しいです!後日談楽しみにしてます…ありがとうございます…あと他の方もコメントされてますがキューピッドの続編のキャロルもめっちゃすきです…悲恋系のお話大好物なので最高です…心を鷲掴みにされました。こちらのifも楽しみにしてます! (2020年1月15日 0時) (レス) id: 18726b033e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:290円 | 作成日時:2019年9月25日 17時