横恋慕の通せんぼ - 3 ページ32
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翌朝。
Aちゃんはあのままソファで眠りこけ、俺も俺で別室に移動。そのまま眠って朝を迎えた。
昨夜、思いがけず唇と唇を重ね合わせたあの時。
ドラマや小説じゃありがちな定石は起きることもなく、Aちゃんは目を開かなかった。疲れていたと考えれば自然だろう。
だから、少々勇気の要ったあれは俺の中だけの秘密。それだけで終わる。
「どう?電車動いてる?」
近くのコンビニで買った朝食を摂りつつ携帯を眺め、確認するのは交通のこと。朝になっても窓の外には雪が降り積もったままだ。
「はい。大丈夫そうです」
一拍遅れ、Aちゃんはそう答える。どうやら電車は動いているらしい、これなら早めに帰れるだろう。
仕事も終わった。あと幾日か残る正月休みはある程度休めそうだ。
「にしても災難だったね。彼氏さん怒ってない?」
暖房の暖かい空気が頬を撫でた。喉が乾燥しそうな空気だけれど、寒さには打ち勝てないのだから仕方がない。
Aちゃんは手を止め、ちらとこちらを見やった。何だか意図が掴めないような目。なんでそんなことを聞くのか分からないらしい。
視線があったから小首を傾げておく、けれど。
「ほら、仮にも男と2人だし。何か言われてねえかなって」
実際、何かがあったわけだし。
「あー…、大丈夫ですよ、多分。優しい人なので」
苦笑い。…まあ、黙ってちゃ何もバレないし。
Aちゃんは携帯に視線を戻し、かちかちと長めに文を打っている。多分件の彼氏にでもメッセージを送っているのだろう。
羨ましい。
目の前にいる俺より優先されちゃうんだから。どんだけ彼氏ってのは存在が大きいんだよ。
1年前の俺が期待したようにすぐ別れることもなく、ライターの中にはそろそろ結婚かもなんて言い出すやつまでいる2人。
──名も姿も知らないそいつに、何で俺は負けてんだろう。
…って、きっと未練がましくこういうことを考えているからだ。
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山田 - 本当にお話を考えるのもそれを文章にするのもお上手でただただ尊敬です… (2022年10月12日 0時) (レス) @page24 id: 5e51f51780 (このIDを非表示/違反報告)
あー - 河村さんの話がめっちゃ良かったです! (2020年8月21日 18時) (レス) id: e630ce1c5f (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - 290円様。あなたの三角関係系の小説すごく好きです。もちろん他の作品も好きですが、これらは小説としての魅力がずば抜けてます。あとたまに読み手に一抹の恐怖を与える作品も最高です。起承転結がしっかりしていて大好きです。まとまりのない長文を失礼致しました。 (2020年1月29日 3時) (レス) id: e047a9674f (このIDを非表示/違反報告)
むー - 好きすぎて更新されるたび心の中でガッツポーズしております。これからも楽しみにしてます…! (2020年1月22日 21時) (レス) id: 1dbbe6e605 (このIDを非表示/違反報告)
めろぱん - コメント見て頂けたようで嬉しいです!後日談楽しみにしてます…ありがとうございます…あと他の方もコメントされてますがキューピッドの続編のキャロルもめっちゃすきです…悲恋系のお話大好物なので最高です…心を鷲掴みにされました。こちらのifも楽しみにしてます! (2020年1月15日 0時) (レス) id: 18726b033e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:290円 | 作成日時:2019年9月25日 17時