宇佐美しか知らない (ページ5)

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尾形「…くー…くー…」

宇佐美「……はぁ…」

窓を開けて音を響くようにしてから、ポイッと本を投げた

バン！

思ったよりも大きな音がたち、尾形の肩がビクッと動く

尾形「ん…」

宇佐美「ごめんごめん起こしちゃったね」

尾形「あ…いいえ…」

宇佐美「もうすぐ新兵の集会だから起きてくれる？」

尾形「…分かりました」

宇佐美「この部屋出て廊下の奥、右側の大部屋が集会所だからそこに行って」

尾形「はい」

もうちょっと眠そうな感じを出すかと思ったが、すんなりと起きて用意を始める尾形

残念…

布団をめくると銃があった

宇佐美「フッ…もしかして一緒に寝てたの？」

馬鹿にするように聞いてみるが尾形の顔色は変わらない

尾形「はい。油断は禁物だと父上に言われてましたから」

宇佐美「へぇー」

聞いておいて興味なさげに返事する

ただ「父上」というワードが引っかかった

宇佐美「お父さんと仲良いの？」

わざと嫌なことを聞いてみる…もしかしたら怒られるかもね

尾形「いいえ。俺の顔なんてもう覚えてないでしょう」

そう言うと銃を背負いながら薄ら笑いを浮かべた

尾形「父上は母の葬式にも49日にも…俺の入隊式にも来ませんでした。本妻とその男児に夢中なんでしょうよ」

宇佐美「え？…お母さん亡くなってるの？」

尾形「はい。小学校の時の話ですけどね」

小学校…？

何歳の時に死んだんだよ…

宇佐美「へぇ…」

尾形「…捨てられた側は覚えてても、捨てた側は覚えてないもんですよ」

野間『母子そろって捨てられたんでしょ』

宇佐美「そ、そっか」

やばい

さすがに嫌なこと聞きすぎた

尾形「では行ってきます。おやすみなさい」

宇佐美「あぁ、おつかれ…」

キィ…バタン

捨てられた側…か

『出て行けよ』

宇佐美「…それなら僕も捨てられた側だ」