宇佐美しか知らない (ページ1)

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そいつページ1

そいつは僕より1つか２つ年下で、可愛気のないやつだった

尾形「尾形百之助です。よろしくお願いします」

噂によっちゃあの花沢閣下の妾の子だとか言われてる

宇佐美「よろしく。別にタメ語でいいよ」

たしかにそっくりでビックリした。顔のほかにも

尾形「…そっすか」

…こういう無愛想なとこなんかもね

＊

月島「宇佐美～？宇佐美いるか？」

宇佐美「はい？」

月島「悪いんだがこの書類書き直してもらえるかな。一等卒は皆んな字が汚くて」

宇佐美「はい、やっときます」ニコッ

月島「悪い、助かるよ」

キィ…バタン

宇佐美「さてなんの書類だ～？」

月島さんが持ってきたのは兵隊の個人書類だった

軍の男は皆んなしてなかなか字が汚い

まだ僕はこれでも達筆なほう

宇佐美「なんでみんな書道とか習わないのかな…」

小さい頃から父が厳しい人で、箸もまだ持てないうちから墨をすらされた記憶がある

だから逆に、書道をやってない人は何をして過ごしてたのか？とさえ思う

宇佐美「あ、あった」

実家の母が入隊祝いに買ってくれた万年筆

高い物だが、お金を出してインクも揃えてくれて

僕のお気に入り

宇佐美「あ…こんな書類にもったいないか」

そうだよ。せっかくお母さんが買ってくれたんだ

書きかけたところで机に直し、安い筆を用意する

宇佐美「は～…全部で何枚あんのこれ」

書類は全てで20枚

まぁ…書けないことはないけど…

そこでふと、疲れた月島さんの顔を思い出した

月島『はぁ…』

宇佐美「…月島さんはいつもやってんだろな～…軍曹って大変」

僕は上等兵に上がってまだ2年

見せ場を作るためにも全部やることにした

宇佐美「さってと～…まずは二階堂浩平と洋平ね…」

つらつらと筆を進めていって、机の端に重ねていく

宇佐美「次は野間と三島と～」

キィ…

宇佐美「あ、おかえり～」

扉の開く音がして、尾形が帰ってきた

尾形「…戻りました。銃ここになおすんですか？」

ただいまなんて言うはずもなく、こっちも見ずにそう聞いてくる

宇佐美「基本はね、でも好きなトコに置いとけばいいから」

尾形「分かりました」

…ホンット可愛気ない

こいつ損してるな

どうせ会話も続かないので、そのまま書類に向き直す

宇佐美「…はぁ…」

意図せずにため息が出て、少し「しまった」と思う

尾形「…手伝いましょうか」

宇佐美「え？」