【銀魂】光に焦がる虫

知らない話 ページ6

ー土方サイドー





「ーー十四郎」





そいつが俺のことをそう呼ぶようになったのは、
次に顔を出した時のことだった。
気恥ずかしそうに紡がれた名が、自分のものだと
自覚して、こっちまで恥ずかしくなる。


元より、俺の名をそう呼ぶ人など、
周りにはいないのだから。





「・・なんか、照れるね」

「たかが名前だろ」


「そうだね。たかが名前だ」




名前なんて、機械についた製造番号と同じ。
初めて会った時、そう言い放ったAだったが
心境の変化でもあったのだろうか。








(ーーー"好き"だといったら、か)




以前、そんな発言をこぼしたAだったが、
別段それを気にしている様子は、今日はない。

どこか、予見していた節があったのか。
俺の中には、驚きも戸惑いも存在していなかった。

・・ただ、受け入れることなどできねーんだと、
ひたすらにそんな想いがよぎっていただけで。








「苗字があるってのもいいもんだね」

「・・あ？」


「私は、自分の苗字なんてわからないからさ」




考えごとにふけっていた俺は、
そいつのそんな発言によって我に返った。

そういやぁ、名乗る時にもAだと
一言告げられただけだった。てっきり源氏名だと
思っていたが、どうにも本名らしい。







「いつからここにいる」




この女について垣間見えた瞬間、そんなことが気に
なっちまうのも、きっと道理ってやつだ。

質問を投げかけた俺に、Aは
「珍しい」と頬を緩めた。





「何だ」

「そっちから私に質問してくるなんて」





・・あぁ、確かにな。

これまでどれだけ言葉を交わしてきたか
わからねーが、俺からこいつのことを尋ねたことは
幾度あっただろうか。





「ま、そんなオチがある話でもなくて申し訳ないけど、・・物心ついた時にはここにいたってのが、
正しい答えになるのかね」




紫煙が女を覆い隠す。
そうして次に現れたそいつの目は、切なげに
揺れていたのだ。




「闇遊郭って感じだろう？営業こそ正規のそれと
大差ないが、・・子供かっさらってきて遊女に
使ってんだからね。ここもデカイ犯罪組織さ」


「なら、あんたも攫われてきたと？」


「もしくは売られたか。まあどっちでもいいけどね
そんな昔のこたァ。不幸話にもなりゃしない」


「・・そうか」





数ヶ月、週一程度で会い続けていたってのに、
俺はこいつのことを、全くもってしらねーんだ。

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