【銀魂】光に焦がる虫

ケジメ ページ30

ー土方サイドー




一晩が明けた。
保護先のホテルから、Aが顔を出す。

柔らかく浮かべられた笑みは、
もう作られたものじゃないように感じた。






「何だ、仕事じゃなかったのかい？あいにく朝には
強いんだ。モーニングコールの心配は無用だよ？」

「誰がんな面倒なこと請け負うかよ。
・・俺ァただ、ケジメつけにきたってだけだ」




ケジメ、か。
我ながらクセェ単語だ。

かくゆうAも、何言ってんだとばかりに
苦笑を漏らしている。


それでも、いたずらにこいつを弄んだことへの
ケジメは、つけなきゃならねェ。このまんま、全部
パーにはできないのだから。









「ーーーお前が最後に俺に言った言葉、
忘れたとは言わせねェ」




"好き"



何とも無責任な言葉だ。
たった二文字に乗せ切れるほど簡単なもんじゃない

責任と、苦悩と、・・少しの幸福が混ざるそれは、
ひどく厄介だ。







「・・忘れるわけないだろう？一世一代の告白だ。
あんたに会えなくなるんだと、そう覚悟決めて
臨んだんだからね。・・ま、それも私自身が無駄に
しちまったみたいだけど」




春を乗せた風が、そいつの髪をさらっていく。






「あの遊郭に座っていた"A"は消えたよ。

・・・今ここにいる"A"になら、違う答えが
出せるかもしれないね」




綺麗な横顔。いつも俯き加減だった目線は、
どこか遠くを見つめているようで。

そいつが今まで目をそらしてきた未来に、
向けられているような気がした。









「十四郎、ーーーあなたが、好き」









その声も、恥ずかしげにこっちを見る表情も。
全てが、俺を突き動かした原動力。

一人の遊女を救いたいと。そんなくだらねェ私欲を
抱かせたのは、この女だ。


本当にくだらねェ。全くもってくだらねェ。


今になって考えれば、あの時間を睡眠に使うことも
翌日の仕事を前もってやっちまうこともできた。

何必死こいて通いつめてたんだか。理由については
あれこれ考えてきたが____、実際は、そんなに
考えるまでもなく、至極簡単な話だったのだ。









「・・あぁ、知ってる」





Aの気持ちも。ーー自分の気持ちも。






「もー、素直じゃないね」




まあいいよ、伝わったから、と。
そういって再び微笑んだAに、やはり鼓動が
派手に揺れるのだった。

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