32 ページ34
私が見えるということは。
つまり、そういう事だ。
轟焦凍もそれには気がついているのだろう。
麗日お茶子が帰ったあと、時刻はちょうど6時。
綺麗な夕焼けが病室を照らし、私は轟焦凍のベッドの横の椅子に座った。
｢…そうか、俺はもう、｣
｢そんなわけないでしょ。私が姿を見せていただけ｣
｢そうなのか？｣
｢えぇ。あと麗日お茶子には少しの霊感がある｣
なんて、私は嘘をついた。
轟焦凍はまだ死なないわよ。と。
ほっとした表情を見せた轟焦凍。
ずきりと胸が痛んだ。
轟焦凍は花を1輪私に見せて、ありがとうと言った。少し、照れくさかったけど、その顔が見たかったの。なんて言えるわけがないけれど。
ちらりと脳裏に浮かぶノイズ。
砂嵐が走り、小さく見える光景がこのごろよく浮かぶ。
それは幼い轟焦凍と、生きていた頃の私の姿が手を取り合って笑っていた。
私が望んでいる姿かしら、なんて自分に嘘を吐いて誤魔化す。
｢俺の話を聞いてくれないか｣
｢……どうぞ｣
沈黙の空気を割って、轟焦凍の声が響く。
少し遅れて反応した。
少し、仮面がズレたかな……。
｢幼馴染がいたんだ｣
過去形に違和感を持った。
｢短い間だったけど、よく俺の手を引っ張って連れ出してくれた｣
過去を話す轟焦凍の顔が、どこか哀愁を帯びていた。
｢よく笑うやつで、俺にいろんなこと教えてくれたんだ｣
｢ただあいつ、個性だけ、教えてくれなかった｣
きゅ、とシーツを握りしめた手が視界に入る。
｢声、覚えてんだ。顔もうっすら覚えてる。ただ、｣
名前だけが思い出せない。と消えそうな声。
そしてまた一言。
｢死ぬ前にもう一度だけ、｣
｢……あいつに会いてぇなぁ｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 52人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
にゃん(プロフ) - だんごさん» 閲覧ありがとうございました！そう言ってもらえると書いたかいがあります！！自分でも納得のいく最後がかけてよかったと思います！新作は考えております！良ければ次もよろしくお願いします！閲覧ありがとうございました！ (2018年2月8日 20時) (
レス) id: e7a720d445 (このIDを非表示/違反報告)
だんご(プロフ) - 大好きでずっと読んでいたて、凄く切なくて美しいオチでうるうるきてしまいました。にゃんさんの言葉の回し、文など読みやすくて好きです…！もし新作を書くのでしたら、次のも楽しみにしています！本当に完結おめでとうございます！(´｡･v･｡｀) (2018年2月8日 16時) (レス) id: f79547a215 (このIDを非表示/違反報告)
にゃん(プロフ) - まこさん» ありがとうございます！ゆっくりと急展開もなく進んでいるこの小説ですが、よければ最後までお楽しみください！頑張ります！ (2017年12月11日 6時) (レス) id: e7a720d445 (このIDを非表示/違反報告)
まこ - スッゴいいいです！頑張ってください (2017年12月10日 4時) (レス) id: 6c7b80997e (このIDを非表示/違反報告)
にゃん(プロフ) - ネネさん» ありがとう〜！！泣けるかわからないけど頑張ります！！！！これからもよろしく！！ (2017年10月19日 19時) (レス) id: e7a720d445 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：にゃん | 作成日時：2017年10月13日 20時
