26話 徒労 ページ27
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ポスン、とゆっくり音をたてて、私の手のひらは艶やかな漆黒に埋もれた。
『(さらさら……)』
触れた髪は想像以上に柔らかくて、手触りの良いそれに少し感嘆を覚えてしまう。勝手な想像だけど、そういうことには無頓着そうなのに少し意外だな________って、
『……っ!』
慌てて手を離す、霞柱様は目を見開いていた。
……な、なんて無礼なことを、早く謝らなければ、いやそれよりどうして私は彼の頭を撫でたりしたんだ。無意識にやってしまった。どうしよう、どうしたら。
『……だ』
考えていることは沢山あったのに、口から出たのは思考とは全く関係の無い言葉だった。
『大丈夫ですか……?』
どういう意味を込めて言ったのか、自分でもわからない。ただこの困惑の気配を滲ませる少年を安心させてあげたくて______ああ、そういえば霞柱様はまだ14歳なのだと誰かが言っていたっけ……いやそれは関係ない。この際歳なんて関係ない。早く謝罪を……
『(…ああ、でも、これが"焦り"……)』
ふと気づいた。また初めての感情だ。この数日間で沢山の感情との出会いを果たしているけれど、焦燥とはこんなに心臓が震えるものなのか……
「……」
霞柱様は自分の額に手を当てて、驚きの余韻がまだ微かに残った表情をしている。当たり前だ。
柱の頭を撫でるなんてなんたる失敬か、先程の質問の返事は返ってこないし、そこまで顔には出てはいないものの、相当動揺しているのだろう。
とはいえ私も人のことを指摘できるほど落ち着けてはいない。この空気、一体どうしたら________
その時だった。突然、襖が音もなくスッと開いた。
「鬼狩り様方、湯浴みの支度が出来ましたので…」
漂っていたただならぬ気まずい空気を断ち切るように、穏やかで温和な声とともに家主が現れた。手には着物を一組づつ持っている。
『あ…………』
「…………」
家主のほうを振り返る私を横目に、霞柱様は無言でゆらりと立ち上がり、家主から着物を受け取るとスタスタ廊下を歩いていってしまった。
「おや…では私はこれで、夕餉の準備が整いましたらまたお呼びしましょう」
『夕餉、ですか…』
「はい。少々お待ちください」
ぺこりと頭を下げて部屋を出ていった老父が廊下を歩いていく足音を聞きながら、私は床にへたり込んだ。
仕切りのないこの部屋で、押し入れには布団が二組。町へ出ることも最早出来ないし、本当にこの部屋で霞柱様と……?
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ほしいも(*^^*)(プロフ) - 設定めっちゃ自分の好みでした!(笑)更新少しずつでいいので頑張ってください〜!😁 (12月13日 16時) (レス) @page40 id: 88768a4726 (このIDを非表示/違反報告)
向汰(プロフ) - 空桜さん» そう言っていただけて嬉しいです!それに、私以外にも頑張っている方がいらっしゃるのだと思うと少し肩の力が抜ける気がします(´˘`*) 試験頑張ってください。応援しています (2019年9月23日 1時) (レス) id: 1112aaa288 (このIDを非表示/違反報告)
空桜(プロフ) - 待ってますね!私も就職試験あります。お互い頑張りましょう! (2019年9月23日 1時) (レス) id: e5333279ca (このIDを非表示/違反報告)
向汰(プロフ) - 何卒さん» ありがとうございます〜〜!気長にお待ちください(´˘`*) (2019年9月22日 21時) (レス) id: 1112aaa288 (このIDを非表示/違反報告)
何卒 - めっちゃ気になるところで終わってしまってウズウズしてます。笑 続き楽しみにしています! (2019年9月21日 1時) (レス) id: 58baba6999 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:向汰 | 作成日時:2019年8月25日 1時