怪演女優 Thirty Eight (ページ4)

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上裸のまま外に出てきた樹くんはすぐに部屋に戻り、昨日着ていた白いティーシャツ一枚とズボンを着て、手には上着を持って戻ってきた。

上着は寒かった時用かな、と思ったけれど、樹くんはそのまま背を向けている私の肩に上着をかけ、その上から包み込むように後ろからハグをする。

田中「それじゃ寒いべ？これ着な、風邪引くから。」

『……え、自分が着る為に持ってきたんじゃないの？』

田中「いやいや、Aちゃん用に決まってんじゃん？」

『……ありがとう。』

田中「……あったかい？」

『うん、あったかい。』

田中「へへ、俺もあったかい。」

樹くんはそのまま私が吸っているたばこを「ちょーだい？」と言って慣れた様子で口に運び、手馴れた様子で煙を体に取り入れて、真っ白な煙を吐く。

初めて見る樹くんの喫煙姿はいつもより大人っぽくて、思わず見蕩れてしまっていたけれど、「あまっ」と笑いかけてくる姿を見てクスッと笑った。

『そりゃあまいよ、バニラ味だもん。』

田中「ねー、俺の吸ってみてよ。」

そう言って樹くんは自分のズボンのポケットから、中身の大半が消えているたばこの箱を取り出して、慣れた手つきでたばこに火をつけた。

私の事を後ろから抱きしめたまま先端がぽうっと赤くなっているたばこを私に咥えさせようとしてくるので、樹くんの手にあるそれに口をつける。

たばこは人差し指と中指の根元に挟まったままだったので、そこにキスを落とすような感じになってしまって、一人で恥ずかしくなってしまう。

恥ずかしさに顔を赤らめる間もなく苦味が広がり、思わず顔を顰めた。

田中「ふはっ、にがいべ？」

『にがい。』

田中「Aちゃんのが甘すぎんだよ、本物はこっちだろ。」

『よくこんなに苦いの吸えるね？』

田中「20歳になってからずっとこれだからなぁ、慣れたって感じ？」

『銘柄変えてないの？』

田中「うん、一回も変えてない。俺さ？」

好きな物って絶対に変わらないし、変えたくないタイプなんだよね。

たばこの話をしていたはずなのに、その他愛ない言葉に酷く安心してしまうのは、さっきまで恋が実らないふたりの恋愛小説を読んでいたからだろう。

自分の事を見ている私に気付き、樹くんは唇にちゅ、とキスを落とす。

部屋にいた時と違って反響しないリップ音は直に耳をくすぐって、次の瞬間、樹くんの口に残っていた苦い味が唇から体に伝わっていった。