▽天気の良い日 ページ34
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「A、今日も行くん?」
『そのつもりです』
仕事もなく良く晴れた日である。
最近は週の半分くらい城下街に出ている私にチーノ様は「何かいい物でもあったのか」と首を捻った。
以前見た旅芸人達は、あの日からずっと我々国に留まっているようで私はそれを見物しに行くのが習慣化していた。
「偶には俺も行こうかな」
『今日はお仕事がないのですか?』
「めちゃくちゃあるわ……」
ガックシと項垂れたチーノ様は、 そのまま横に並んでいた私に寄り掛かかると体を凭れさせた。
彼とはかなり身長差がある為、足に力を入れないと押し倒れてしまいそうだ。
『ち、チーノ様…!危ないですっ』
「ん〜?何やそんなに力あらへんの」
軍人と半引き籠りを同じ天秤で測らないで頂きたい。
渋々といった様子で体を起こした彼は、ズイッと空色の雲のような髪を私の方へ差し出した。
「なぁ、撫でて」
『えっ?』
「……二度も言わせんでや」
チーノ様はつんと唇を尖らせると、少し上目遣い気味に視線を寄越した。
厚い眼鏡越しに切れ長な目がソワソワと此方を伺う。
……この場合、私はどうするのがベストなのか。
沈黙の辛い空間を打破するべく、そぉっと癖のついた柔い髪を撫でると彼は私の手に押し当てるように頭を寄せた。
「ん〜……うん、もうええで」
『あっ、はい』
「しゃーない、仕事すっかぁ」
暫くそうしていると気が済んだのか、彼は大きく伸びをして言った。
お返しとばかりに頭1つ分低い私の頭部を撫でると、チーノ様はふらりと職務室の方へ向かって行った。
『宜しくお願い致します』
馬車の中で護衛を務めてくれる2人に挨拶をする。
定型文になりつつある言葉に返されるそれは随分と
冷たい。若干心が挫けそうになるが、まず共に来て貰ってることに感謝せねば。
城下街付近に着くと馬車を降りて徒歩で街へと入る。
初めて来た時にチーノ様と訪れた所為か、私は一体何者なのかと街中で噂された事もあったという。
その後どうやって噂を鎮めたのかは知らないが、最近は“少し良い家のお嬢さん”らしい扱いをされていた。
「あら、お嬢さん!またいらしてくれたの?」
『こんにちは、今日は人が多いのね』
「うふふ、《今日も》の間違いよ」
艶やかに笑う踊り子は令嬢達とは違う美しさがある。
快活な口調と、程よく健康的な肉体は同性の目さえも惹きつける。
今日はどんな姿が見られるだろう、私は少年のような気持ちでショーの開幕を待った。
ラッキーゲーム
hoi
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奥山乃愛(プロフ) - niさんやsnさんにも愛されたいです(恋愛的に)無理せずに頑張ってくださいね! (2022年11月2日 16時) (レス) id: fdc1778b4b (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - モモさん» お祝いのコメント感謝申し上げます。途中更新期間が空いてしまい申し訳ありませんでした。ご期待に添えたものであれば幸いです、これからも是非にお付き合いくださいませ。 (2019年11月30日 23時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
モモ(プロフ) - 続編おめでとうございます。リクエストの小説も楽しく読ませて頂きました。ありがとうございますm(_ _)m相変わらず言葉の言い回しが美しく素晴らしい作品だなぁと改めて思いました。冬は何かと忙しい時期になると思いますが、無理をしない程度に頑張って下さい(*^^*) (2019年11月28日 12時) (レス) id: 9f311d580c (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 猫夢さん» こんばんは、好きの一言が何より嬉しいので無問題です…。ありがとうございます。 (2019年11月24日 19時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
猫夢(プロフ) - 語彙力がないけど言いたいので失礼致します。好きです... (2019年11月21日 13時) (レス) id: e485f856c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あん肝ポン酢丸 | 作成日時:2019年9月22日 15時