Sanctuary <Jesse×Hokuto> (ページ11)

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「あー！もう！」

この部屋から物音以外が聞こえるようになったのはいつからだろう。
随分と騒がしくなった書斎は、以前よりも明るく見えた。

「どうしたの。」
「ぜんっぜん分からない！」

大学が終わってバイトが無いからと当たり前のようにここにいる彼は、不思議な人。不思議なくらい、甘い人。

「今日は何をやってるの？」
「マーケティングだって。海外の。」
「なにそれ。面白そう。」

ノートパソコンの画面を見つめながらどこか他人事のように自分の課題を説明する姿は、どこにでもいる学生だ。

珍しく表情に出して不機嫌なのがおかしくて、執筆が落ち着いた俺は立ち上がって君の隣に座った。

「へぇ。難しそー、」
「興味ないならいいよ。」
「そんなことないよ。」

「ほんと？」

「うん。君のやってる事には興味がある。」

「…ナチュラルに口説くのやめてくんない？」
「本心だから諦めて。」

紙の中で生きてきた俺には、
パソコンの画面は違和感で。

無機質で代わり映えのない文字たちには魅力を感じられなかった。やっぱり俺にキーボードは向いてない。

「ふふっ。せんせ、顔怖いよ。」
「…だって英語じゃん。」

「英語も機械の文字も嫌いだもんね。」
「でも君が読んでるのに、ずるいよ。」

「…、なにが？」

なにが狡いのかと言われると分からない。

でも、

普段は意味の分からなそうな顔で
原稿用紙を眺めているこの人が、

真面目な顔して何と向き合ってるのかと思ったら、
到底俺には理解し得ないものだったのは嫌だった。