好きだと伝える魔法があれば 《前編》

F 11 ページ11

目が覚めたら、目の前に寝てる自分がいた。



夢か…


なんて思ったのは一瞬だけで、



あ、これが幽体離脱だって妙に納得した俺。



ここは病院だ。


俺、あのまま怪我したんだな…


体に管が繋がれてる。


どれだけの怪我だったんだろう。


最後の記憶は頭を強く何かに打ち付けたこと。


打ち付ける前…


北山が頭に浮かんで、叫んだ気がする。



病室のベッドで眠っている自分を見下ろす。


俺、宙に浮いてるんだ…。


テレビで見たことがあることだけはやってみる。


寝ている自分に重なって見たり…


戻れ！と念じてみたり…


でも、戻ることは出来ない。



どうしたらいいんだよ、これ。



時間だけが刻々と過ぎて行く。



看護師さんが俺の様子を見に来たけど

俺の存在に気付くことなく、退室した。


これはマジで…ヤバいやつだ。


ひとりでどうしたらいいのか、わからない。


窓の外を見ると、日中のようで明るい青空が続いていた。


とにかく…誰かに気付いてもらいたい。


パニクりかけていたところに、ノックされた扉。


入って来たのは、渉だった。


『渉っ！』


救世主だっ！

叫んでみたけど、渉が反応することはなく、

近寄った俺の体をすり抜けて、寝ている俺の横へと座った。


…見えないんだ、渉にも。


「太輔、来たぞー」


寝てる俺に話しかけてくれてる。


『渉、こっちだって！』


目の前を遮るように行くけど、俺の体はすり抜けるだけ。


『渉…』


渉が助けてくれなきゃ、誰が助けてくれるんだよ。


『渉？こっちだって…俺…ココに…』


ダメだ…




誰にも助けてもらえない。




気付いても、もらえない。





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