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卒業 (加筆ver) ページ25

遅咲きの桜が風に舞う。
淡いピンクの、小さなハートが掌にひらりと落ちてきた。

「センパイ」

聞き慣れたその声にゆっくりと振り返る。

「ご卒業、おめでとうございます」

頭を下げて呟くように言う彼女の声は少し震えていた。
じわりと視界が滲んで世界が、彼女が歪む。

「ありがとう」

口角を無理矢理上げて笑みを浮かべる。
尚も顔を上げない彼女の足下は少し濡れていた。

「じゃあ」

彼女に背を向けて足を踏み出す。
砂利の擦れる音がやけに大きく聞こえた。

手を握り締めて涙を耐える。

一度だけ立ち止まった。
重い足は、中々動いてはくれない。

「ずっと、」

掠れたその声は、小さいながらもハッキリと耳に届いた。

「ずっと、好きです」

振り返らずとも、しっかりとこっちを見ているのが分かった。

彼女の視線を背中に感じる。
今まで以上に熱く、真剣な、その視線を。


彼女に気付かれないように、そっと手を開いた。
ぐしゃぐしゃになった花弁は、けれども綺麗なままでその存在を主張している。

「さようなら、センパイ」

勢いよく振り返る。

彼女の姿を目に捕らえる直前、強い風が地に落ちた花弁を舞わせた。

次に目を開いたときには彼女の姿はなく、ただ桜並木が続いているのみ。

ずっと一人だったようだ。


ありがとう、と叫んで力強く歩き出す。

今度こそ立ち止まらずに。
今度こそ、振り返らずに。
未だ見ぬ未来へ、希望を抱いて。


桜が、静かにエールを送った。




─卒業─END

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八重(プロフ) - カシオペアさん» ありがとうございます!!まさかこっちまで読んで頂けるとは……その上コメントまで……本当に感謝します(*/□\*)上手なんて、恐縮です……(でも嬉しい)頑張ります!ありがとうございます!本当に!!! (2017年7月3日 21時) (レス) id: e19e44ac0b (このIDを非表示/違反報告)
カシオペア - ヒロアカの方を読んだので、こちらものぞいてみましたが本当に文を書くのが上手なんですね。一つ一つが短くて読みやすいです。更新、頑張ってください! (2017年7月3日 20時) (レス) id: 972c361b83 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:八重 | 作成日時:2017年4月24日 2時

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