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『氷織くん、ほんとうにありがとう。すっごく助かった』
何度もお礼を言って、別れ際までも頭を下げた私に氷織くんは「もうええて」と少し困ったように笑った。
自分でもなんであんなに言ってたんだろうと、ちょっと恥ずかしくなる。タオル一枚畳んでくれる度にありがとうと言ってた気がする。
「ほんまはね、逃げたかったんよ」
『……なにから?』
「…なんやろ……自分を取り巻く、全部の環境……とか?はは」
僕もよおわからんわ〜と自嘲気味に話す氷織くんに、なにか危険なものを感じた。
泣きそうな顔をしてるほど辛いはずなのに、無理にでも笑顔を作ろうとしてるのを見て、このまま放ったらダメだと本能で思ったのだ。
『ねぇ、大丈夫?じゃ、ないよね』
「……」
こういう時、どうやって励ましてあげたらいいか分からないのが辛い。
もっと人との関わり方学んでおけばよかったと後悔する。
『ごめん私、友達とかいないからさ……どうすればいいか分からなくて……あの、何か出来ることとか、ある?』
思わずハンカチを目の下に添えた。
大きな目から、今にも涙がこぼれそう。
「ごめん……僕、情けないな」
『そんなこと……』
「……ほんとに、なんでもないんよ。ただ、わからんくて」
『うん?』
ふと見た洗濯機のドアに、隣に座る氷織くんの丸い後頭部が反射している。ついでにオロオロ慌てている自分も映って、うわ情けないなと自己嫌悪に浸りそうになったが私までそうなっては仕方ないと腰を据えた。
「時々分からなくなるんよ……なんで自分がここにいるんやろかって」
『……どうしてって、世界一を目指すためじゃないの?』
ここにいる人達はみんな、ただ一心に夢を目指して前を向いている。ほんと、あんまり眩しいから夢のない自分なんか霞むくらいに。
だから当然氷織くんもそうかと思ったんだけど……違ったのかな
「世界一……か」
フッ、と氷織くんの端正な顔に影が差した。
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ごりらに憧れてます - ちょっと控えめに言って神です。語彙力めちゃ高ですし……小説家なれると思います。応援してます!!最高でした〜 (1月19日 7時) (レス) @page43 id: 930e13de40 (このIDを非表示/違反報告)
黎明(プロフ) - 話の構成が上手すぎて引き込まれました…!神作品を有難う御座います! (10月10日 13時) (レス) @page22 id: 96c5df6fb7 (このIDを非表示/違反報告)
時雨、ときどき猫。 - 私、最後の「彼との幸せな〜」を呼んだ瞬間、大泣きしました。枕に顔うずめてたら親に笑われました(笑)本当に心が温かくなる話でした!これからも投稿頑張ってくださいね! (6月5日 21時) (レス) @page49 id: 5c49e2991a (このIDを非表示/違反報告)
ルナ - すっごい泣きまた!本当に素晴らしい作品をありがとうございます! (5月21日 0時) (レス) @page49 id: e67944ae95 (このIDを非表示/違反報告)
ヒラコ - 素敵なお話をありがとうございました。ツナさんの暖かい気持ちに感動しました。生きることは決して楽しいこと、美しいことばかりではないけれども、それらはいつか糧となり実を結ぶのだと思います。私もいつか生きていて良かったと思える日が来るよう今を生きます。 (2023年4月2日 2時) (レス) @page49 id: 488b484064 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ツナ | 作成日時:2023年1月28日 16時