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第二話 ページ4

『……んっ…?』

眩しい光に目を細めながら体を起こす。そこはやはり、見慣れない場所だった。

『ってか制服のまま寝ちゃったんだ。うわー、シワになってる…』

ひとまず外に出ようと障子に手をかけた時、誰かが先に勢いよくそれを開けた。

「……あ…」

『む、むいくん…』

私は慌てて自分の頬を抓る。痛い。…夢じゃない。目の前にいるのは間違いなく、時透無一郎だ。

『むいくん、あの…』

むいくんは私の言葉に眉根を寄せた後、ぼんやりとした視線を向ける。

「君……名前なんだっけ…?」

『…え…?』

名前…?そもそも、私は名前を名乗ってないけど。

「…僕の名前、知ってるって事はお互い名乗りあったんでしょ」

『………あ!』

むいくんの言葉でハッとする。確かに、昨日初めて会ったのに名前を知っているなんておかしいだろう。

『う、うん!昨日名乗って…。私は高梨A』

名乗れば、ふーん、と興味なさそうに言う。

「まあ…すぐに忘れるだろうけど。既に忘れてるし」

何てことないように言うむいくんに、少し悲しくなる。
忘れるって…すごく怖い事だと思うのに。

『…忘れたら、また名乗るから』

むいくんは一瞬だけ目を見開いた後、また元の顔に戻る。

「目が覚めたなら、早く帰れば?」

『…か…える…』

帰る…?何処に…?

だって此処は漫画の世界で。私の家も、お母さんも、お父さんも、友達も。何もないのに。

『帰りたい…けど。…帰れない』

「……は?」

『…分かんない。…此処にはないから…』

顔を歪めた私に、むいくんは溜め息を吐く。

「…人攫いにでも遭ったの?」

人攫いじゃない。所謂トリップだ。でも、そんな事言える筈がない。
黙っているのを肯定と捉えたのか、むいくんはまた1つ息を吐いた。

「分かった。取り敢えず、今は此処にいなよ」

『……え…』

「アンタをどうするかは後で決める」

『あり…がとう…』

むいくんがそんな提案をするなんて、思いもしなかった。

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uru(プロフ) - 愛NAさん» ありがとうございます!自分ではまだまだと思っているのですが、そう言って下さり嬉しいです!!これからも頑張ります! (2020年8月18日 19時) (レス) id: 275269a074 (このIDを非表示/違反報告)
愛NA(プロフ) - 小説の書き方上手過ぎませんか…??ちょっとシリアスだったり面白かったり、何かもう色々と凄って思いました。陰ながら応援させて頂きますね…! (2020年8月18日 18時) (レス) id: d66500f3cb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:憂流 | 作成日時:2020年8月2日 15時

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