【イナオリ】新人さんは、幽霊さん【男主】 (ページ18)

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第１６話野坂の考察ページ18

イナビカリダッシュでボールを取り野坂達よりも前の位置で振り返り、Aは笑う。
灰崎は、やるじゃねぇか、と嬉しそうに呟き野坂もまた楽しそうに笑った。

嗚呼、サッカーって楽しい。

野坂がそう思いながらAのボールを奪おうとするとAが途端に明日人の体から抜け落ちるようにして出てくると野坂に手を伸ばした。
野坂もとっさのことだったが、Aが伸ばした手を反射的に取って自分の方へと引き寄せる動作をするとAはそのまま野坂の中へと入っていった。

(誰かが入り込んでくる感覚。これが、彼の言っていた入り込むってことか)

野坂は瞬時に判断したが、意識を曇らせていく。自分が目を開けているのか閉じているのか、動いているかもわからなかったが、しばらくするとそれは理解できるようになった。

『よし、野坂にも入れたみたい』

「まじかお前今、こいつの中に入ってんのかよ」

『うん。普通に動かせるし、視界もはっきりしてる。なんか稲森よりも感覚ははっきりしてるかも』

野坂はぼんやりとする意識の中で、自分の声が自分以外の誰かによって発せられていることを理解し本当に今、自身の体の所有権がAという少年にあるのだと実感した。そうなると、試したくなることは色々ある。

(……声は出せない。視界は悪い。よく、見えないけど多分明日人君はそろそろ意識を取り戻してるな)

少しずつ沈んでいくような、どこか流されるような感覚の中を揺蕩っていく。野坂の予想通り、明日人は既に意識を戻し、野坂？、と首を傾げている。きっと灰崎君あたりが説明するだろうと思いながら野坂は体に力を入れた。
やはり動かすことはできない。

(……どうすればいい…………跳ね返す、押し出す、引き剥がす？……)

野坂の考えを知るはずもないAは、明日人にもボールを向ける。彼のサッカー脳は何があっても変わらないようで野坂の方が珍しく笑顔になっている。

「こんなに笑顔の野坂、初めてみた」

「後でいじってやろうぜ」

『ご希望だったら写真を撮ってもいいよ。僕が体に入ってる間の記憶は完全に受け継がれるわけじゃないか……』

Aが言葉を続けようとすると、ふと内側から何かに押し出されたような衝撃が飛び込んできた。その衝撃のままにAは前へとつんのめって転ぶ。野坂の体に怪我させたかと素早く起き上がると、自分の姿が違うものになっていることに気づいた。