53:殺意(H) ページ5
いくら力を込めようともピクリとも動かない体。
鍛冶屋の親父の言う妖刀とやらに、精神がイカれちまってるのか───なんて、そんな暢気に考えている暇は無かった。
足蹴にされ屈辱的な扱いを受けても尚、俺の体は勝手に動く
ついに浪士が刀に手を掛ける。
まずい────
「失礼」
冷ややかな声が、頭の中をすうっと冷やしていった
生暖かい血飛沫が、まるで桜が舞い散るかのように踊る
容赦のない一太刀は、確実に殺意を持って命を刈り取る。感情の光を一切宿さない怜悧な濃藍色の瞳、血の気を感じない人形のような表情。
その横顔は、まるで────
「───副長、お怪我はありませんか?」
ハッとして差し出された手を見上げると、僅かだが返り血を浴びた大祝が心配そうに俺を見下ろしていた。
外出禁止を言い渡したハズのコイツが何故此処にいるのか?その疑問は直ぐに解消された
「お見事。流石近藤さんが推薦するだけはある」
「お前は……!」
見慣れた制服に勘に障る話口調。
薄い硝子の向こうから俺を軽蔑するような、嘲笑うような瞳が見下ろしていた
「真選組隊士が襲われていると思い駆け付けてみれば……こんなところで何をやっている。
土方君」
伊東は大祝の肩を掴み、下がりたまえと言い放つ
「しかし、」
「君の上司は僕だ」
僅かに眉をしかめた大祝が、差し出していた手を引っ込め、伊東の後ろへ控えるように下がった。
「Aさんは今日付けで僕の助勤として働いてもらっているんだ」
「そいつの面倒は俺が見る約束だ」
「君の役目は彼女を江戸に慣れさせることだろう?彼女の教育は、近藤さんから頼まれたのだよ」
大祝に視線を向けるも、じっと俯いたままでこちらを見ようとしない。
「兎に角屯所に帰ろう。Aさん、案内は後程頼むよ」
「……はい」
大祝が握ったままだった刀の切っ先から、ポタリと、血が垂れた
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みぃ(プロフ) - コメント失礼します!こちらの作品がとても大好きでいつも楽しく読んでます。更新頑張ってください。応援してます (2019年5月31日 19時) (レス) id: d77d134be6 (このIDを非表示/違反報告)
虎(プロフ) - れもんさん» 楽しみにしてます!私の考えなのですが、伊東さんは、もしかしたら愛情が欲しかったのかな?と思いました。 (2019年2月19日 23時) (レス) id: f0c523c988 (このIDを非表示/違反報告)
れもん(プロフ) - 虎さん» お返事遅くなり申し訳ありません。コメントありがとうございます!!伊東さん…確かに頭が良くて何と無く怖い印象があるのわかります…でも生い立ちもラストも切なくて……。真選組動乱編終了までもう少しですので楽しんでいただけるよう頑張ります! (2019年2月18日 23時) (レス) id: af4b9b062a (このIDを非表示/違反報告)
虎 - 面白いです!私は伊東さんっていつ見ても少し怖い印象を持っています。 (2019年2月17日 20時) (レス) id: f0c523c988 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:東雲出雲 | 作成日時:2019年2月13日 0時