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70:本心(O) ページ22

「残念ながら収穫なしです。そちらはどうでした?」


宝石箱をひっくり返したかのような丼が運ばれてきて、俺はAの話を聞きながら醤油に山葵を溶かした



「てんで駄目だ。どいつもこいつも神隠し神隠しって思考停止してやがらァ」

「神隠し……」



くっと眉間に皺を寄せたAは、それきり暫く口を開かなかった。



「……おい、聞いてんのかィ」

「ええ……ただ、何と無く、此方に来た時のことを思い出しまして」


力無く笑みを浮かべるソイツに、俺は河原に転がった女の姿を思い出した



「……京都から江戸まで落ちてきたって話しか」

「はい。
……私は今、"向こう"でどうなっているのかと、ふと気になりまして」


丼に一周。醤油を回し掛けて、Aはいただきますと律儀に手を合わせた


「……なァ」


話しかけた俺に、濃い藍色が視線で応える


「アンタ、その"向こう"とやらに戻りてェのか」


少しだけ、Aの瞳が揺れ、次には繕ったような笑みが浮かんだ


「…………どう、でしょうか」


そう言った後ハッとして、顔の前でわたわたと忙しなく手を動かした


「あ、いや、……私は、向こうでは、その、……真っ当な人生を歩んでいた訳ではありませんから。……此方は、凄く、心地好いのです」

「心地好い?」

「はい。江戸の文明は進んでいて、人は皆、素性も知れぬ私に親切にしてくださいます。
私も……此処では以前よりずっと、真っ当な人間で居られているような気がして……

ずっと此処に居たいと、そう、思います」


Aの口元に、柔らかい笑みが乗る。

しかし、何処か暗さを持ったヤツの瞳は、何処か別の、遠く離れた場所を映しているようだった


「ですが時々、ふと思うのです。自分は、此処に居るべき人間ではないと。……向こうで、成さなくてはならない事が、あるのではないか、と」



箸を握り締めたまま、Aは瞳を伏せた。

まるで知らない世界に、たった一人で放り出された。
自分の知るものは何一つ無く
自分を知るものも何一つ無い


顔を上げたAは、何事も無かったかのように「食べましょうか」と笑った








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みぃ(プロフ) - コメント失礼します!こちらの作品がとても大好きでいつも楽しく読んでます。更新頑張ってください。応援してます (2019年5月31日 19時) (レス) id: d77d134be6 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - れもんさん» 楽しみにしてます!私の考えなのですが、伊東さんは、もしかしたら愛情が欲しかったのかな?と思いました。 (2019年2月19日 23時) (レス) id: f0c523c988 (このIDを非表示/違反報告)
れもん(プロフ) - 虎さん» お返事遅くなり申し訳ありません。コメントありがとうございます!!伊東さん…確かに頭が良くて何と無く怖い印象があるのわかります…でも生い立ちもラストも切なくて……。真選組動乱編終了までもう少しですので楽しんでいただけるよう頑張ります! (2019年2月18日 23時) (レス) id: af4b9b062a (このIDを非表示/違反報告)
- 面白いです!私は伊東さんっていつ見ても少し怖い印象を持っています。 (2019年2月17日 20時) (レス) id: f0c523c988 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:東雲出雲 | 作成日時:2019年2月13日 0時

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