107:謝る(晋作) ページ9
居心地の悪い部屋から飛び出して庭の砂利を蹴る。
ガシャガシャと煩いのがいやに耳に障った。
数日前から奴等は皆Aの話ばかりでうんざりする
突然いなくなったと思えば突然帰ってきたのだ、心配をかけたのは向こう───いや、僕は全く心配何てしなかった。むしろ居なくなって済々したくらいだ。
……と、言うのは言い過ぎかもしれないが、だが、それでも、僕はAが帰ってきた日以来、その顔を見ていない。
「大体何故この僕がAごときに許しを乞わなくてはならんのだ」
そう口に出した瞬間、視界の端に黒髪が揺れて、ふわ、と柔らかい香り、真剣が空を切る独特の重い素振りの音に、思わず足を止めた。
「ぁ……」
勿論僕に気付いた彼女の瞳が、ほんの僅かに気まずそうに揺れる。
…当たり前だ、げんにこの僕ですら気まずくて唾を飲み込むほどに空気が重たい。
何か言葉をかけるべきか?
ちらりとAの表情を盗み見るが、先程の気まずそうな表情はなく、何時もの無表情。
だいたいAに"いい人"ができるだと?こんな男女に惚れるヤツなんてろくな人間じゃないに決まっている。だいたいコイツは人を見る目がないんだ、誰にでもホイホイついていってこの僕がどれ程心配してるかなんてお構い無しに──っていや、断じて心配なんてしていないのだが!
とにかく、一言何か言ってこの場を去ろう。
そう、そうだ、皮肉の一つでも言ってやれば良いんだ。
「……せ、精が出るな!!」
「え……」
〜って子供か僕は!!皮肉のひの字もないだろ!
内心頭を抱えながら、目の前のAを改めて見つめ直す。
「っ、僕からは謝らないからな!」
ああ、やっぱりだめだ。
あの濃藍の瞳を見た瞬間に、僕は真っ直ぐ彼女を見れなくなる。
情けなくも泣きそうになるのを堪えながら、僕は早足でその場を去った。
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みぃ(プロフ) - 続編おめでとうございます!これからの展開がすごっく楽しみです!これからも頑張ってください。 (2019年8月13日 23時) (レス) id: d77d134be6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:東雲出雲 | 作成日時:2019年8月12日 14時