【3年A組】杭は出なきゃ打たれないはず 5【今から皆さんは人質です】

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涙を流しながら、茅野さんは黙々と手を動かしていた






先生が1人で闘っている


大きな声を出して、嘆いて


ときに詰まったように小さく呻いて






それが苦しくて仕方ない


景山がこんな世界に苦しめられていたことを今となって知って辛い




茅野さんはそんな顔をしていた




だからこそ、早く屋上に行かせてあげなきゃならない


それに、さっきから嫌な予感が執拗く纏わりつく





《…自分の親や、友達に面と向かって言えない言葉を見ず知らずの他人に、ぶつけんなよ…っ！

お前のストレスの発散で他人の心を抉るなよ、分かるだろ？俺の言いたい事…！

お前らそこまで馬鹿じゃねぇだろッ！！


…気付いてくれ、っ……》



「先生怒ってる…」





怒ってる…



何故かそうとは思えなかった




確かに大声で叫んではいるけど、その叫びは怒りじゃない





「いや、これは怒りじゃない…

祈りだ」





嘆きに似た先生の懇願、願望、望み…



ただただ、それを願っているように聞こえた





《いいか…

マインドボイスは、誰もが気軽に繋がれる便利なツールだ

気の合う友達を見付けて、いつでも何処でもコミュニケーションが取れる…

人によっては心の拠り所になるだろう、それも大切だ。否定はしない…》





あぁ、そっか


さっきから詰まっているのは痛みからのものでもないのか




声が震えていて


…先生、泣いてるんだ





《けど…その一方で！恐ろしい暴力装置にもなり得る…！》





便利な世の中になっちゃったからなぁ…その分危険は付き物だ




先生はそのことをみんなの前で鼻をすすりながら伝えていた


“言葉は時として凶器になる” って





《だから刻んで欲しいんだよ！！

右に倣って吐いた何気ない一言が、相手を深く傷付けるかも知れない…

…独り善がりに、偏った正義感が、束になる事でいとも簡単に人の命を奪えるかも知れないって事をッ…！


そこに居る君に！これを見ている貴方に！！

一人一人の胸に刻んで欲しいんだよ…っ


他人に同調するより…他人を貶すよりっ…

まずは自分を律して！磨いて作っていく事が大切なんじゃないのかっ…？

ってかそっちの方が楽しいだろ！？》



『っ、…』





次の瓦礫に手を掛けたとき、指が切れて血が流れ始める



…何でタイミングだよ





「A、ちゃっ……」



『…大丈夫』





これくらい、口に含んでおけば直ぐに止まる




…動かせるのなら、大丈夫






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