【文豪ストレイドッグス】ポートマフィアの指導者

壱頁─稽古─ ページ6

『ほらほら、まだ掠り傷しかつけられてないよー。頑張れー』




子供らしく、それでいて大人びた雰囲気を纏った少女は椅子に座り書物に目を落としながら興味なさそうにやる気の無い声援を送った。

彼女が声をかけるのは二人の人物。

帽子を被った青年と躰のいたるところに包帯を巻いた青年だ。




｢そんな熱の籠ってない言葉をかけるんでしたら、何も云わずに黙って見ててもらえませんかねッ！｣

｢中也！そっち！｣

｢ったく、手前は人使いが荒いンだよッ！｣




中也と呼ばれた帽子を被った青年が不満の声をもらす。

彼等は今、稽古の真っ最中なのだ。

内容は少女の友達であり、家族でもあるクマのぬいぐるみを行動不能にするというもの。


ぬいぐるみと聞き、それで稽古など馬鹿げていると思った者も居るかと思う。

そのぬいぐるみが“普通”であれば...だが。




｢ッ！｣




包帯を巻いた青年が顔を歪める。

青年の頬には薄っすらと血が滲んでいた。

その原因であるぬいぐるみは、“ケラケラと面白そうに笑いながら走り回っていた”。


中也がぬいぐるみの行く手を塞ぎ、ぶつかる直前に自ら指先で触れる。



──異能力《汚れつちまつた悲しみに》──



直後、指先とぬいぐるみの間で異常な衝撃波が起こり、それを受けたぬいぐるみは勢いよく壁へと吹っ飛ばされた。




｢お見事！中也にしてはやるじゃないか｣

｢...太宰、手前は何もやってねェけどな｣




太宰と呼ばれた包帯を巻いた青年が笑顔で拍手を送る。

しかしそれを送られた本人は微塵も嬉しそうではなく、顔を顰めてただ愚痴をこぼした。


彼等を知る者にとっては日常茶飯事なその光景。

世間でいう仲が悪いという言葉では収まらないほどに彼等は相容れなかった。

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