232 ページ35
映画館を出て、近場のカフェに入る。
少し女性客が多いが、ビジネスマンもいるから紛れるように店員に促されるまま席へつく。
「軽食か」
「そんなに腹減ってんの？」
「そこそこ」
比較的大食いな一静はポップコーンを殆ど一人で食べ切ったが、それでも腹は膨れないらしい。メニューをじっくりと見て、決まったのか俺の方に向けた。
「決まった？」
「うん。Aは？」
「決まった」
頷いて一静が手を挙げる。店員が気が付いてこちらに来た。注文を通すと、一静は小さな溜息を吐いた。
「どした？」
「ん？いや、なんでもない」
「ふーん」
水を口にして、少し店内を見渡す。
「さっきの、なんでニヤニヤしてたの」
「ああ、それ？」
一静が切り出したのは、エンドロールを見ていた時の話。思い出して、思わずまた表情が緩む。
「映画デート、いいなって」
小さな声で言う俺を見て一静は少しの間フリーズした。
「一静？」
「あ、いや。」
「え、なに」
緩く笑うと、一静も釣られて笑った。その表情のまま一静は口を開く。
「なんか、Aを俺の趣味に付き合わせた感じあったから、よかったのかなって思ってたんだけど」
「俺は一静と一緒ならなんでも嬉しいよ」
チョロいべ、と頬杖をついて苦笑いする。
一静に惚れてからというもの、ちょっとした買い物とか、部活とか、なんなら登下校の時間でさえ嬉しかった。それが今は、一静も同じように思っているのかと思うと言葉にできない感情を抱く。
「俺はAが喜んでくれるなら、なんでも嬉しいかな」
「疑問形」
「いや、終助詞」
「古典かよ」
二人とも柔らかく笑っていると、一静のホットサンドとカフェラテと、俺のコーヒーが運ばれてきた。
「コーヒーだけ？」
「後でうどん食いたい」
「小麦だらけだな」
「一静だけな」
ホットサンドを手に取って、一静は具を落とさないように慎重に食べ始めた。
一静が会計を持つと言って聞かなくて、先にカフェの外で待っていた。
「ねぇ、君ひとり？」
「いや、連れが」
「A…‥行くよ」
「そういうことなんで」
カフェから出てきた一静が俺の背に手を回して押した。
「何ナンパされてんの」
「いや、ちゃんと断ろうとしたよ」
怒っているのか、俺の方を見ずに言う。少し人気の少ない通りに入った。
「一静、ごめん」
言った途端に抱き締められる。落ち着こうとしているのがわかった。
「ごめんな」
「俺もごめん」
腕が離れてキスをされた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 114人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
シャバ僧(プロフ) - しおさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます！及川も花巻も友達思いだと思うので、嫌がってる堂島を連れていった先輩に嫌悪感示しそうだなと、この展開にさせていただきまました！なかなか松川夢ってないので、自分のためにも頑張ります！笑ありがとうございます！ (2022年8月11日 8時) (
レス) id: 97accd6b89 (このIDを非表示/違反報告)
しお(プロフ) - 展開が！！最高すぎます！！松川だけじゃなく花巻達まで不快に思ってる感じ本当に最高です...たくさん更新してくださるのでとても助かってます、これからも頑張ってください！^_^ (2022年8月11日 3時) (レス) @page5 id: 8068b429a0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：シャバ僧 | 作成日時：2022年8月9日 11時
