顔合わせ ページ16
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家に着いて夕飯の準備を任された。姐さん…とはまだ顔合わせが出来ていない。挨拶すべきだとは思うけれど、誰が誰なのか分からないのだ。
姐さん…も、きっと他にも仕事があって忙しいから一日会えなかったんだろう。そう思うことで、自ら会いに行くということから目を背けた。
『お昼に作ったやつが余ってるから…。』
「あら、あなたがAさんかしら?」
『…?!は、はい。そうです』
「顔合わせ出来なくてごめんね?お昼作ってくれたんでしょう?」
何だか、凄く雰囲気の柔らかい女性だな。もしかして、この人が姐さん…?明らかに一般人っぽい風貌や口調だし、そうだと信じたくない。
「ちょっと手が離せなくてね。助かったわ。お夕飯は私も手伝うからパッと作っちゃいましょ」
『は、はい』
こんなに優しそうな人なのに、組長さんと結婚して組で過ごしているんだ…。人生何があるか分からないなぁ。私もそうだけど。突然両親に売り飛ばされるなんて、普通に過ごしてたら体験しないもん。
彼女の手際の良さに、やっぱりこの人は組を支える大切な役割を持つ人なんだと再認識した。腹が減っては戦はできぬ。それを解消するための食事を何年も作ってきたんだろう。私の出る幕ではなかった。
「よし、出来たわね。あ、ちょっと。みんなにお夕飯出来たって伝えてくれる?」
ut「はい、姐さん。すぐ伝えてきますね」
通りすがりのうつさんに声をかけ、彼女は座敷に行ってくると台所を後にした。残された私はと言うと、何れ料理を運びに来てくれる組の人たちを待っている。
「お〜姐さんと一緒に作ったんですか」
『はい、ほとんど手伝うこともなかったんですけど…』
「昼間の料理も美味かったんで、これからも頼みます」
『私なんかの料理で良ければ』
強面のこの人たちが浮かべる笑顔は、純粋に素敵だなと思えるようになった。各々理由があって、少しだけ道を外れただけなんだ。それを修正するための場所が、ここだったんだろう。
さぁ、私も食事をとるために彼らについていこう。
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