03: 謎が謎を ページ5
.
いくら待っても来なかった。
掌の感触も、そこから訪れる筈の激痛も、死ぬまで永遠のように引き伸ばされるであろう苦しみも、何もかも。
良かったとか、安堵の気持ちとか、正常な感情が機能しないままおそるおそる目を開けた。
『え……ぁ、の？』
そこには視界を埋めるあの掌はなく、ただ広くなった景色の中心で惚けたような表情を浮かべるその人がいた。
真っ先に逃げることを選ばなかった(というより選べなかった)のは、さっきまでの狂気が抜けたように見えたからかもしれない。
窺うように気持ち程度に覗き込む。するとその乾いた唇は最小の動作で「なんで、」と零した。
「なんで逃げない？」
『へっ…？』
「普通なら這いつくばってでも逃げるもんだろ。結果失敗して殺されるかもしれないけど、それは望んだ形じゃないだろうし。…でも、お前の言動は『死んでもいい』って思ってるみたいだ。痛くなきゃいいのかよ？……改めて聞くけど、」
＿＿＿なんで逃げなかった？
全ての疑問が凝縮された問いが投げかけられる。
吸い込まれるように視線を離せない紅い瞳に、最初に声をかけた時と似た空気を感じた。逃げようとしても、絡め取られる。そんな不思議な感覚を。
そして脳内で問いを反芻した。
なんで、か…。
『…わかり、ません…。でも、貴方の言う通り､『死んでもいい』って思ったのかもしれません…』
ポツリ、ポツリ、浮かんだ言葉を繋げていけば形になっていく。嘘をつく気も意味もなかった。
『わ、私は自分が大事だから、傷つけないようにっていつも考えてて…！だから、今もバラバラに砕けて死ぬなんて怖いから。…そのっ、もっと安全なやり方でって…！あ、あー………ごめんなさい自分でもなんて言ったらいいか』
思ったことを洗いざらい吐き出せば、スッと何かが軽くなった気がする。今までの人生でこんなに正直に何もかも伝えられる誰かがいなかったからかもしれない。
それが今日、この瞬間は、この人が静かに受け入れてくれているように思えて話してしまった。
見ず知らずの、わかっているのは危険な人物ということだけなのに。
恐怖から逃れたいという単純な思考とはまた違った、形容し難いものが胸の中で渦巻いている。
『＿＿それで、殺さないんですか…？』
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 606人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
CHOCO(プロフ) - ガ〜ジさん» サブ垢から失礼します！大好きなんてめちゃくちゃ嬉しいです！また最近ポケモン発売やらで忙しくなってきて更新遅れるかもですが、気長にお待ち頂けるとありがたいです(^ｰ^;) (2022年11月19日 10時) (
レス) id: da095af137 (このIDを非表示/違反報告)
ガ〜ジ(プロフ) - つい先日この作品読み始めてたんですが、まさか更新されるとは思わず通知見た瞬間奇声出ました！大好きです...更新待ってます😌 (2022年11月18日 0時) (レス) @page26 id: da6eb7fbb3 (このIDを非表示/違反報告)
*Geranium*(プロフ) - 時々雨さん» ありがとうございます！そう言って頂けて嬉しいです！テストは適度に手を抜いてますのでご心配なく← 土曜には頑張って更新していこうと思います(^^) (2020年2月4日 22時) (レス) id: a4804d91b1 (このIDを非表示/違反報告)
時々雨(プロフ) - *Geranium*さん» 返信していただきありがとうございます。お忙しい中返信して下さったと思うと不躾にも嬉しくなりますね。インフルや最近では新型肺炎などもあるそうなので体調にお気をつけてくださいね…。無理はダメですよ？更新をゆっくりお待ちしてますね。 (2020年1月30日 0時) (レス) id: f71e6147a3 (このIDを非表示/違反報告)
*Geranium*(プロフ) - 時々雨さん» ありがとうございます！コメントとても励みになります(*^^*) ほとんど自己満の為に書いてたものなのでそう言っていただけて感激です！テスト期間やら自動車学校やらで精神やられる時期ですが負けずに頑張りますね！ (2020年1月30日 0時) (レス) id: a4804d91b1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：*Geranium* x他1人 | 作成日時：2019年10月23日 0時
