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「……何にもないです!」
陸くんと同じ調子で返事をして
いつもみたいに笑ってみても、
陸くんは顰めて、心配そうな表情をする。
「本当に何でもないよ!」
改めてそう言うと陸くんは何処か
納得していない様子だったが
渋々、席に戻っていった。
(陸くん……)
顔を見れば、声を聞けば、
想いは止められないほど加速していく。
どうしようもないくらい好きで、
胸が張り裂けそうなほど切ない。
好きなのに、私の『好き』は
伝えることすら許されない。
伝えたとしてもそれは彼を困らせるだけ。
同時に、親友を裏切る行為だ。
分かっている。
でも、このままじゃ、本当に。
いつかあふれて
止められなくなってしまう気がして……。
*
お昼になり、
私は昨日のように学食へ向かおうと
自分の分のランチバッグを持って立ち上がった。
(……どうしよう)
机の横に掛かったままの、
もう一つのランチバッグを見やる。
それから、ちら、と陸くんに目をやった。
彼は何やら、明日香と話している。
それが済むと、
「!」
一直線に私の方へ歩いてきた。
(わわわわ……どうしよう!)
緊張で焦る私を他所に
陸くんは無邪気に笑いながら
「A」と名前を呼ぶ。
「今日も、一緒に食べよ」
「え? 明日香は─────」
「さっき断ってきたから大丈夫」
陸くんは遮るように言って見つめてくる。
私の返事を待っているみたいだった。
「わ、わかった……」
「やった! どこで食うー?」
お弁当も、今の誘いも、断る勇気があれば。
突き放す勇気があれば。
正しい選択を、頭では分かっている。
けれど、出来なかった。
私はやっぱり、弱虫だ……。
「教室でいい?」
陸くんは訊いたものの自分で答えを出した。
「うん、いいよ」
私は頷き、手に持っていたランチバッグを
机の上に静かに置く。
(お弁当、どうしよう……)
せっかくなら渡したいけど
どうしても、渡す勇気が出ない。
「じゃあちょっと購買行ってくる」
「え? あ……」
そうこうしているうちに、
陸くんは購買へと行ってしまった。
引き止める言葉も出ないまま、
その背中を見送ることしか出来ない。
追い掛ける?
どうしよう。
(あぁ、もう……)
私の意気地無し。
追い掛ける勇気すら、
私は持ち合わせていなかった。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年7月1日 18時