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世間話を交わしていると
学校までの距離は直ぐだった。
校舎が見え始めた頃、陸くんは言った。
「昨日の、さ」
どきん、と一層大きく心臓が跳ねる。
煩かった蝉の声が
一瞬で聞こえなくなった。
「あの電話とLINE、気にしないでね」
そう言う陸くんを見やっても、
彼は目を合わせることはしない。
その横顔は何処か切なげに見えた。
「陸くん……？」
彼は一瞬だけこちらを見て泣きそうに笑った。
だけどそれは本当に一瞬で
見紛えた幻かと思ってしまう─────。
「……」
私は口を噤む。
と、再び蝉の声が耳に入ってきた。
生温い風と相俟って夏を感じさせる。
私は黙ったまま陸くんと共に校門を潜った。
*
教室に入ると、案の定の展開だった。
「堀内、A！ お前ら遅刻だぞ！」
そんな説教をされたのは
これまでの学校生活を振り返ってみても初めてだった。
休み時間に陸くんが、
「怒られちゃったねー」
と笑いながら話し掛けてくる。
「ごめんね、私のせいで」
「いやいやAさんのせいじゃないよ！
……てか、名前で呼んでもいい、ですか？」
その言葉に私が勢いよく頷くと
陸くんはふわりと嬉しそうに笑った。
「Aちゃん？ Aっち？」
一人、ぶつぶつと試行錯誤を繰り返す彼。
Aっち、って……！と私はこっそり小さく笑う。
そのうち、彼はパッと顔を上げると
「A！」
といきなり呼んできた。
「う、ん……！ それがいい！」
正直、その表情が可愛くて
それから繰り返される自分の名に
心臓が破裂しそうだった。
「よし、これからはAね。
何か一気に仲良くなった感じ」
そう言って微笑む陸くん。
嬉しい─────けれど、
それはどんなに近づいたって
“友だち”を越えられない。
なんて思っていると。
明日香が「Aー」と私の席に近づいてくる。
「あ。 あー……俺ちょっと行くね」
陸くんはそれを見て立ち上がった。
「うん、分かった」
彼はそのまま廊下に出ていく。
入れ替わるようにやって来た彼女は
人差し指で私の頬をつついた。
「もー。
忘れ物取りに行くのに
時間掛かり過ぎでしょー」
「ご、ごめんごめん！」
謝りつつも、
(どうして逃げるように
出て行っちゃったんだろう……)
と、私は陸くんのことが
気になって仕方がなかった。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年7月1日 18時
