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(良かった〜)
ペンポーチを胸元に抱えて、ホッと息をつく。
教室に、ペンポーチを忘れたと気付いたのは
帰り道、学校から家まで半分ぐらいの距離を
歩いていたときだった。
別に取りに戻る必要はなかったのだけれど
何せお気に入りの物だったので
時間もあるし、という具合で今に至る。
肩から掛けた鞄の中にそのペンポーチを入れると
改めて教室を見渡して、
クラスメートが誰もいなかったことにまた安堵した。
クラスメートたちが、嫌いな訳じゃない。
だけどどうも苦手なのだ。
皆でわいわい騒ぐというのも
そういうノリについていくのも……。
だから、誰もいなかったことに
少しだけ安心してしまった。
なんて思っていると
─ガララ……
少し遠慮がちに扉が開いて、
驚いた私は肩を震わせ出入口を振り返った。
「あ……ごめん、びっくりさせた?
そーっと開けたつもりだったんだけど」
扉を開けた人物は肩を竦めて笑ってみせ、
言いながら教室に入ってきた。
大丈夫、とそう答えたいのに
緊張で喉が渇いて声が出ない。
言葉で答える代わりに
私は、ぶんぶんと首を左右に振った。
「良かった良かった」
そんな私の動作を見逃さず、
その人はにこにこと笑っていた。
その人─────堀内 陸くん。
YouTubeでは、
『すしらーめん《りく》』
という名前で活動していて、
私も実は彼のファンだったりする。
YouTuberとして有名になった陸くんは
クラスでも人気者だ。
「あぁー、疲れた」
陸くんは走ってきたみたいで
少しだけ息を切らせていた。
「いつもみたく、
ダッシュで帰ってたんだけどさ
途中で筆箱忘れてることに気付いて。
……Aさんは何で残ってるの?」
驚いた。
私と、同じ理由で戻って来たなんて。
「わ、私も……同じ」
あたふたしながら答えると
陸くんは「おー!」と、
謎に嬉しそうな声を上げた。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年7月1日 18時