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♢
「今日そらが一緒にご飯食べよって言ってくれたとき、脈アリなのかなって」
唇をわずかに噛み締め、彼女は弱く笑った。
「ああもう、馬鹿みたいだよね」
声が震えているのが隠せていない。
儚い笑顔も、らしくない。
不安定な彼女の声の音が、転がるようにその場に落ちた。
「期待しちゃった。
ただの自意識過剰なのに……。 本当に恥ずかしい」
そんな饒舌になるなよ。
強がってるのバレバレだっつーの。
「……ふぅーん、そう」
俺は彼女を見ないまま、箸を持つ手も止めないまま、短く言った。
Aが求めてる言葉は分かる。
“大丈夫だよ”。 “気にすんな”。
そういう励ましが欲しいんだ。
でも、俺は何も言わないことにした。
大丈夫、って言ったって根拠はないし。
気にすんな、って言ったって気にしないわけない。
ただの気休めでしかない言葉をかけたら、余計に傷つけるかもしれない。
「……本っ当に、冷たいヤツ」
Aはそう毒を吐いて、フォークを持った。
いただきます、と呟き、冷めたパスタを食べ始める。
「悪かったな」
こう見えても俺は俺なりに考えてますけど。
欲しいときに欲しい言葉をくれる、都合が良いだけのヤツには成り下がりたくないし。
*
その日の講義をすべて終え、用事もないので帰ろうとすると、ばったりAに出くわした。
「今日もう終わり？」
彼女が訊いてきた。 講義のことだろう。
「終わり」
「へぇー」
自分から訊いたくせに興味無い返事やめろ。
「Aは？」
「私も終わり」
じゃあ今から帰るところか。
「一緒に帰ってあげてもいいけど」
「こっちのセリフ」
ってことらしいので、一緒に帰ってあげることにした。 方向同じだし。
Aといるのは正直とても気が楽だ。
変に気を遣う必要もないし、沈黙が落ちても、無理に話題を振らなくたって気まずくないから。
俺は積極的に話し続けるタイプじゃないし、彼女もそれは同じ。
だから二人でいるときはいつも大いに盛り上がる、ってわけじゃないけど、何だか安心出来る時間ではある。
沈黙さえも心地良い、みたいな。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2019年9月28日 19時
