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数メートル先に、彼の姿を見つけた。
暗めの茶髪。ちょっとくせ毛っぽい毛先がまた可愛い。
私の存在に気づいていない様子の彼は、スマホをいじりながらベンチに腰掛けている。
多くの学生が行き交う大学の広場。
どんなに人がいても、私は直ぐに君を見つけられる。
だって、君が好きだから。
腕にかけていた女の子らしいデザインのベージュのバッグから、手鏡を取り出した。
前髪も崩れてない。 メイクも完璧。
鏡の中の自分に向かって笑顔の練習をしてみる。
(……よし)
鏡をしまうと、さも今気がついたみたいに「あっ」と声を上げた。
「そら〜」
小さく手を振り、ゆるく巻いた髪をわざと揺らして駆け寄る。
「あ、A」
彼は私の姿を認めると、スマホをしまって立ち上がった。
そんなそらと向かい合うようにして立つ。
「どした？」
「ううん。 そらと話したくなっちゃって」
にっこり笑ってみせる。 彼も同じように笑った。
「そっか。 じゃあ、一緒に飯食う？」
「いいの？」
思わぬ誘いに、一気にテンションが上がった。
きっと私の表情は輝いていると思う。
少しは、期待してもいいのかな。
「じゃあ、俺も！」
なんていう声が突然聞こえた。
そんなふうに私たちの間に入ってきたのは、エイジだった。
心臓がヒヤリとする。
「な、何でここに……」
私はそらの手前、笑顔の仮面を貼り付けたまま彼に問うた。
「偶然偶然」なんて答えるエイジだけど、百パーセント嘘だ。ううん、百二十パーセント。
彼はいつも、ことあるごとに私とそらの邪魔をしてくる、悪魔のようやヤツなのだ。
「じゃあ三人で行くか」
なんて笑うそら。
「やったー」とエイジが棒読みで言った。
……待って待って。 そんなの、絶対に嫌。
私は、そらと二人になりたいのに。
でもそらの前で怒ってる顔をしちゃいけない。
いつも、にこにこしていないと。
今までの努力が水の泡になってしまう。
「ちょっといい？」
私は先ほどのような引きつった笑みのまま、ぐいっとエイジの腕を引っ張った。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2019年9月28日 19時
