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「違う……違う……」
しきりにそう呟くあーずー。
きょろきょろと周囲を見回し、味方を探しているようだ。
「意味のない死を選ぶか、意味のある死を選ぶか」
エイジくんの鋭い視線は彼女を捉えたまま。
「待ってよ! 皆、自分が何言ってるか分かってる!?」
あーずーの言う通りだ。
皆、ことの重大さを全然理解していない。
その筆頭がエイジくんだ。
「少し前に本物の屑がどうとか言ってたけど、お前は昨晩マホトを殺したわけだろ?」
彼女に歩み寄った彼は無感情な冷たい眼差しを注ぎながら言う。
「ちがう……違う違う違う」
「自分が生き残るために。
逃げ回るあいつの背中を刺した、そっちの方がよっぽど屑だろ」
「違う!!」
彼に責め立てられたあーずーは両手で頭を乱雑に掻き、叫ぶと、エイジくんを思い切り突き飛ばした。
ことの重大さを全然理解していない、その筆頭がエイジくん……それは違うかもしれない。
彼は何もかも理解したうえで、それでも冷徹で、残酷な判断が下せるのかもしれない。
「時間!」
誰かが叫ぶ。
「3、2、1!」
カウントダウンするエイジくんの声は、あーずーの悲鳴よりもはっきりと響いた。
耳を劈くような彼女の声もかき消すほど。
輪の中央で向かい合うようにして立っていたエイジくんとあーずーは、勢いよく互いを指した。
私は泣きそうな気持ちで、あーずーを指した。
震えるその指先を見ないようにしながら……。
だから、誰が誰に入れたのかはっきりとは見ていない。
けれど、あーずーが「ちょっと!」と金切り声を上げたので、彼女が最多票を集めたのだろう。
重たい腕を下ろし彼女を見やると、あーずーはさぁやちゃんの元へ歩み寄っていく。
「庇ってあげたじゃん! ねぇ!」
さぁやちゃんは俯き、小さな声で「ごめんなさい……」と繰り返す。
「裏切るの!?」
絶望したようなあーずーの視線から逃れるように、さぁやちゃんは顔を上げない。
あーずーはそのうちふらふらと彼女の元を離れると、頬を伝う涙を掌で拭った。
「私、守ったのに……守ってあげたじゃん……!」
涙の隙間で言う。
彼女はさぁやちゃんと私を交互に見ていた。
私も出来ることなら目を逸らし、顔を背けたかった。
罪の意識からも、逃げたかった。
でも、そうしてはいけないと思った。
あーずーは再び頬を拭うと、今度は私の元へ歩み寄ってくる。
「私、生きたい────」
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年8月15日 23時