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「Aが謝りたいなら……悪いと思ってるなら、いいよ」
そう言うとゆっくりとこちらを向いた。
目が合っているはずなのに、どこか遠くを見ているような眼差し。
「態度で示してよ」
「え……？」
彼が漂うような動きで歩み寄ってくる。
「口だけなら何とでも言える。ちゃんと、償いをしてよ」
すぐそばまで来ると、彼はこちらに両手を伸ばして覆い被さってきた。
「え？ ちょっと……！」
一ミリも動けない。
肩を強く掴まれてステンレス製の調理台の上に半身押し倒された状態だ。
私が「やめて！」と抵抗すると、彼の手が私の口を塞いだ。
苦しい。声を上げてもくぐもって聞こえるだけ。
彼がマスクを下げて顔を近づけてきた。
至近距離で目が合う。
苦痛に満ちた、迷子の子どもみたいな目だ。
混乱した。 わけが分からなかった。
「いや……っ！」
何とか彼の両肩を押し返して逃れた。
そばに重ねて積んであった食器が派手な音を立てて床に落ちる。
しかし逃れたのは一瞬だけだった。
彼が私の背中に両腕を回して、再び先ほどと同じ体勢になる。
もう一度抵抗を試みるものの、先ほどよりも力が強い。
痛い。苦しい。痛い。
彼と調理台に挟まれ、反り返るような格好になっているせいで力が入らない。
彼の手が私の肩から下へだんだん滑り下りてくる。
息が出来ない。 呼吸のやり方が思い出せない。
誰か。 誰か助けて……！
「え……？ ちょっと！」
そのとき、そんな声とともに誰かが厨房に飛び込んできた。
「何してんの？ ねぇ、何してんの!?」
あーずーだった。
彼女はポキくんの制服の襟を掴み、後ろへぐいっと引っ張った。
彼の身体を私から強引に引き剥がしてくれる。
その衝撃でポキくんの背中が食器棚にぶつかった。
さっきみたいに、食器がガラガラと揺れて、ガシャン！という派手な音とともにいくつも床に落ちた。
彼は逃げるように早足で歩き去っていく。
「ねぇ、待ってよ！ ちょっと！」
彼女は追うようにポキくんの方に向かいかけ、足を止め、食堂の出入口の方へ顔を向けた。
「誰か来て！」
そう叫ぶと、私の方を振り返るあーずー。
「大丈夫？」
身体が小刻みに震える。
怖かった。 痛かった。
彼女が労わるように肩に手を添えてくれた。
その感触が先ほどのポキくんの行動を思い起こさせて、一瞬また身が硬くなってしまう。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2019年8月15日 23時
