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「うん」

私は静かに頷いた。
マホトくんも、こくこくと頷く。

「あ……」

ふと視線を上げると窓の向こうにポキくんの姿が見えた。

窓の向こう、と言っても外にいるわけじゃなくて、彼は彼の部屋にいる。

自室の窓を開けて外を眺めていたみたいだ。

この建物がコかHかどんな形なのかよく分からないけれど、この位置と皆の自室がある棟は向かい合って出来ている。

私の視線を辿った2人も彼の姿を認めたらしい。

「何? 知り合い?」

と、あーずーが尋ねてきた。

「……幼なじみなんだ」

私が答えたとき、彼は私たちの存在に気付いたようで部屋の奥に引っ込んだ。

「幼稚園、小学校と一緒で……3年の終わりまで」

そう言った途端に過去の記憶の断片がどっと押し寄せてきた。

おもちゃ箱にでたらめに詰め込まれた小さなブロックを、一気にぶちまけられたみたいな感じだ。

「……最悪の再会だね」

あーずーが苦くて酸っぱいフルーツを食べたみたいな表情で言った。

マホトくんは私と、もう既に姿が見えなくなった彼を見比べて問うてくる。

「何かあったの?」

「……ううん」

その心配そうな顔を見たら、私は反射的に首を横に振っていた。

────もう何年も前のことだ。
子ども時代にはよくあるありふれた出来事、かもしれない。

ずっと気になっていた。
でも正直、少しずつ記憶から薄れ始めていたと思う。

もしここでポキくんと再会しなかったら、それこそ10年後にはあの記憶は、無数に重なったブロックの一部になっていたかもしれない。
そのことに罪悪感があった。

だから、謝りたかった。
ちゃんと話をして、事情を説明して、駄目な自分を認めて。

こんな状況ではあるけど、こんな状況だからこそ。



*



カチ、カチ、と投票場の壁にかけられたアナログの時計が、大袈裟なほど秒針の音を響かせていた。

7時55分。 急かすような針の音が耳障りだ。

皆、そわそわと落ち着かない様子でそれぞれ椅子に座っていた。

「……あの。毎晩8時に投票、だよね」

カンタくんが皆を見回して言う。
誰も何も言わない。 異常なほどの緊張感。

何か言葉を発したら、心臓を射抜かれてしまいそうな刺々しい空気。

そんな中「これは確認だけど」と、トミーくんが前傾姿勢になった。

「今さら自分が預言者だ、とか言い出す奴はいないよな?」



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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年8月15日 23時

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