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「A…」

陸が身体ごとこちらを向いた。

「……大丈夫?」



私の1番大切だった家族。
生きる目的だった家族。

救うために、私はここで命がけで戦っているのに。

「陸」

私は涙の隙間で言った。

「私、お父さんに裏切られてた」

言葉にしたらまた、涙があふれた。

昨日はじめから聞いた『イケニエ』というシステムを彼にも話す。



「私、帰る場所なかったよ……!」

昨日あれだけ泣いたのに、それでも涙は枯れなかった。

「───大丈夫、きっとあるよ……」

陸にとっては他人事なのに。

「俺、許せない。こんなこと……!」

まるで自分のことのように嘆いてくれる。

「こんなゲームで遊んでる人たち!」

彼の目にも薄らと涙が浮かんでいた。

「……だから、どんなに辛くても負けないで欲しい」



*



1番大切な存在に裏切られたという絶望は、いつの間にか醜く変化を始めていた。



*



最早、議論することなど何もなかった。

私たちは投票までの時間を各々1人で過ごした。

私は自室の窓を開け、左手首にはめていた腕時計を捨てた。

「……」



“負けないで欲しい”



陸の言葉を心に刻みつける。

帰る場所は、自分の居場所は、自分で作ればいい。



家族のためじゃない。

私は、自分のために、生き残る。



*



投票まで残り10分を切っている。

既に全員が顔を揃えていた。



「もう、終わりだね」

リクヲが小さな声で呟く。

「この投票が最後になるかもしんない」

続いて、マホト。



「残り5人で、人狼が2人と恋人が2人いる。
……人狼は私とマホト」

マホトは手を額に押し付け頭を垂れた。

「あんなふうに殺しておいて、よく平然とそんなこと言えるね」

リクヲは今朝と同じようなことを言った。

「人間じゃない!」

「あんたに何が分かんのよ!」

今朝と違い、私は彼に言い返す。

もしも自分が同じ立場だったら?

今と同じことが言えるのだろうか。

リクヲは膝の上で拳を握り締めていた。



「私たち人狼が勝つには、恋人を吊るしかない」

私が何を言い出すのか、マホトは垂れていた頭を上げ、真っ直ぐ私を見据えていた。

私は痛む心を抑え、涙を飲み込み、その名を呼ぶ。



「……陸」



彼は動じなかった。

「よく嘘つき続けたね」

静かに目を閉じ、俯く。

「頑張ったよ。 ……陸が恋人なんでしょ?」

訪れる僅かな沈黙。

秒針の音がやけに響いている。

「だから、人狼の私を庇ったり、潰し合いをさせようとした」



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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2018年3月10日 16時

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