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廊下を歩きながら小声で話す。
「自称預言者じゃなくていいんだ?」
「守られてる可能性がある。
今は確実に人数を減らしたい」
そう言った彼が立ち止まったのはツリメの部屋の前だった。
……漸く、呼吸が正常に戻る。
肩と腕の力がすっと抜けた。
私は小さな賭けに勝ったわけだ。
─バンッ!!
勢いよく扉が開かれる。
ツリメは椅子に座り机に向かっていたが、恐れ戦いたように立ち上がると壁際まで後ずさった。
「最悪……」
と、一言。
「そうだよ、最悪だよ」
ナイフを手にゆらりと立つマホトが答える。
「俺、ただの村人だよ……?」
マホトは構わず距離を詰めた。
「お願い、良い情報教えてあげる……!
だから─────お願い、お願い……」
『別の人の所へ行ってくれ』と、言葉にこそしないけれどそう言いたいのだろう。
「情報って何?」
私はマホトの肩越しに尋ねた。
「……さっき、そらがはじめさんのこと脅してた。
バラされたくなかったら従え、みたいに」
震える声で紡ぐツリメ。
「脅してた?」
マホトがぽつりと呟く。
「Aとマホトさん、2人が人狼っていうことは……そらとはじめさん、その2人が恋人陣営ってことじゃない……!?」
ツリメは泣きそうな表情で訴えかける。
「だからお願い……、そらかはじめさんの所に行って!」
彼の懇願も虚しく、マホトは冷たく言い放つ。
「ごめん、無理」
歩み寄っていくマホトに
「何でもする! 何でもするから!」
と、縋り付くツリメ。
「“何でもする”?」
と反復したマホトの言葉に頷く彼。
「あ、そう」とマホトは机にナイフを投げ捨てた。
「じゃあ、早く死んで」
「え?」と返したツリメの声は掠れていた。
「何でもするんでしょ」
マホトの声はどこまでも冷酷だ。
─────きっと、処刑のときに同じ言葉を放った、彼女のことを思い出している。
嫌だと拒むツリメを急かす彼。
バシッ、と何度か頬を平手打ちにし、その後髪を引っ掴むとベッドに投げ飛ばした。
殴られ、蹴られ、引っ張られ、痛みに顔を歪め叫ぶツリメの声と。
「“何でもする”って何だよ!!」
マホトの怒鳴り声。
鈍い打撃音やらが、耳を劈く。
馬乗りになって暴行を続けるマホト。
べしゃ、ぐしゃ、と
何かが潰れる音も聞こえる。
血が飛び散って、彼のカッターシャツや白いシーツが赤く染まっていく。
私は唇を噛み締めて、黙ってそれを見守り続けていた。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2018年3月10日 16時