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でも、じゃあ、どうすれば良かったのだろう。
気持ちをひた隠しにして、
“見てるだけで充分”だと
そうやって自分に言い聞かせ
想いを抑える以外、他に道はあっただろうか。
振られたとしても後悔しないように、と
そらに告白したとして、
万が一それで二人の仲が壊れたら。
私は取り返しのつかないことを
してしまったことになる。
─────例えそうなるなら、
偽善と言われようと今の方が
やっぱり正しかったと思える気がする。
「んー、だから、良いんじゃない？
少しくらい自分の気持ちに正直になっても」
エイジの言葉に私は暫く黙り込んだ。
(……そんな簡単に割り切れないよ)
現実は、恋愛小説みたいに甘くない。
あふれんばかりの気持ちを認めたところで
それが空回ることだってある。
それで嫌われたら、と思うと怖くて動けない。
「……無理だよ。怖い」
思ったことを正直に言った。
すると、盛大なため息が聞こえる。
「呆れた。 Aのバカ、アホ、チビ」
「チビは関係ないでしょ！」
バッと顔を上げて言葉を返す。
「何だ、言い返す元気あるじゃん」
満足気に頷くエイジに
「え？」と首を傾げる。
「弱気になるなんて、Aらしくねぇもん」
そう言って目を細めた彼は
本当に優しさにあふれていた。
……一瞬だけ、
見とれてしまったことは絶対に内緒だ。
「……そうだった。
エイジも辛い恋、してるんだもんね」
「……」
『辛い恋』の形が必ずしも同じだとは限らない。
でも何となく、エイジと私は
同じ種類の恋愛をしている気がする。
“好きな人には好きな人がいる”……
─────そんな恋を。
「エイジは
“自分の気持ちに正直”でいられてる？」
そう尋ねた瞬間、
一瞬、彼の表情が切なげに歪んだ。
それがひどく私の心を揺さぶる。
「……」
赤い髪を耳にかけたエイジが
身体ごと私に向き直って
真っ直ぐな眼差しを寄越してくる。
そのまま静かに立ち上がって歩み寄ってきた。
「俺だって、そうありたいよ」
そう言った彼に手を引かれ
私は椅子から立ち上がる。
バランスを崩した私を
エイジが肩を掴んで支えてくれる。
至近距離に迫ったその顔に
どくん、と心臓が跳ねた。
「……そろそろ、正直になってもいい？」
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年11月25日 1時
