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「ありがとう……、残ってくれて」
そらはやっぱり何処か緊張を隠せない様子で
いつもより弱い笑顔を浮かべた。
「ううん」
私も応えるように笑うけれど
彼に負けないくらい弱々しくなってしまった。
おかしいな。
以前の私ならこんな状況、
心臓がドキドキし過ぎて
耐えられないほどだったと思うのに。
『────逃げちゃう？ ……俺と』
エイジの言葉の真意は何だったのだろう。
どうして直ぐに
その手を振り払えなかったのか。
もし、私が言葉通りに“逃げた”としたら
今頃どうなっていたかな。
「……っ」
不意に両肩を掴まれた。
強く、でも、優しく。
考えに耽っていた私はその感触にハッとした。
「ちゃんと、こっち見て」
真剣な表情と真っ直ぐな目から
思わず逃れるように顔を逸らす。
「今、Aといるのは俺なんだから」
彼の声は溶けてしまいそうなほど
切なさにあふれていた。
逸らした視線を彼に戻すと
何の隔たりもなく、目が合った。
「今だけでいいから。
あいつのこと考えるの、やめて」
胸が苦しくなった。
「ごめん……」
俯くと同時に謝る。
────私はずっとそらを想ってきた。
例え彼に他に好きな人がいても、
報われない恋だとしても。
ただ“友だち”としてでも。
彼と話せればそれで充分だと思っていた。
でも、今、
そんな状況が一変するということは
言葉がなくても分かった。
「俺、彼女と別れたばっかで
それでこんなこと言うの、
おかしいと思うんだけど─────」
時々、声を詰まらせながら
だけど そらは一生懸命紡いでいた。
「でも俺、本気」
どくん、どくん、と
鼓動が加速していく─────。
「俺と……付き合って、くれない？」
その言葉に 喜びよりも先に切なさが込み上げた。
……どうして？
何を躊躇う必要があるの？
私はずっと心の奥底で
その言葉を待っていたはずだ。
“友だちで充分”なんて
自分に言い聞かせてもやっぱり
ずるくて、欲張りで、
もし付き合えたら……って
何度も夢見てきたじゃないか。
彼の『話』の内容が何なのか
全く検討がつかなかったほど
私は鈍感じゃない。
だからもう、答えは決まっていた。
決まっていた─────筈だったのに。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年11月25日 1時
