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#32 ページ32

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「あの、実は─────」

手に持っていたパンを袋に戻して

私はエイジに向き直る。

「“放課後、話がある”って言われた」

誰に、なんて言わなくてもきっと通じる。



「ほー、そうなんだ」

エイジは咀嚼を止めずに答える。

その先に言葉を続けるでもなく

こちらを向くこともないまま

黙々と昼食をとっていた。

「え、それだけ?」

自分でも、彼に何て答えて欲しかったのか

彼にどんな反応を求めていたのか

はっきりとは分からなかった。



「それだけ、だけど。
……逆に何を期待したわけ?」

エイジは挑発的に笑う。

私は何も答えられないまま

ふらりと視線を逸らした。

「あー……。 良かったじゃん」

彼はそんなふうに付け足して

食べ終わったのか席を立ち教室を出て行く。

「……」



エイジの言う通りだ。

私は彼に何を期待したんだろう。

どうして欲しかったのだろう。

私は、私の正直な想いは、一体どこにあるのだろう。

(……こわい)

定まらない自分の心が。

曖昧に傾く“三角”が。



*



そうして放課後はやって来てしまった。

「また明日」

エイジは鞄を肩にかけると

そう言って私に片手を上げる。

「あ、うん……。 じゃあね」

普通に笑ったつもりだったのに

頬は言うことをきかなかった。



「何でそんな元気ないんだよ」

エイジが掛けていた鞄を下ろし

自身の机に座る。

「……嫌なら、逃げればいいじゃん」

「嫌だなんてそんな筈────」

咄嗟に反論してしまってから

エイジの真剣な表情に思わず言葉が詰まった。



「────逃げちゃう? ……俺と」

冗談を言っているとは到底思えない彼に

戸惑いながらも拒めなかった。

(何で……)

ほんの少し前までなら

こうして差し出された手を

迷う隙もなく振り払えたのに。

隠さないと決めた“好き”に

自信がなくなってきた……。



─パシッ

エイジの手を振り払ったのは

間を割って入ってきたそらだった。

彼は冷たくエイジを睨む。

「何してんの?」

以前の二人の様子が反転したような感じだ。



「別に。 もう帰るし」

下ろした鞄を肩に掛け直し

エイジは机から立ち上がった。

そのまま振り向くことなく

歩いていってしまう。

「待っ……」

思わず呼び止め掛けて

慌てて口を噤んだ。

一瞬、ぴたりとその足が止まったが

それは本当に一瞬で、次の瞬間には、

エイジは教室を出て行ってしまっていた。



取り残された私たち。

吹き込む風がカーテンを揺らし

午後の陽が二人の影を作る。



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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年11月25日 1時

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