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「あの、実は─────」
手に持っていたパンを袋に戻して
私はエイジに向き直る。
「“放課後、話がある”って言われた」
誰に、なんて言わなくてもきっと通じる。
「ほー、そうなんだ」
エイジは咀嚼を止めずに答える。
その先に言葉を続けるでもなく
こちらを向くこともないまま
黙々と昼食をとっていた。
「え、それだけ?」
自分でも、彼に何て答えて欲しかったのか
彼にどんな反応を求めていたのか
はっきりとは分からなかった。
「それだけ、だけど。
……逆に何を期待したわけ?」
エイジは挑発的に笑う。
私は何も答えられないまま
ふらりと視線を逸らした。
「あー……。 良かったじゃん」
彼はそんなふうに付け足して
食べ終わったのか席を立ち教室を出て行く。
「……」
エイジの言う通りだ。
私は彼に何を期待したんだろう。
どうして欲しかったのだろう。
私は、私の正直な想いは、一体どこにあるのだろう。
(……こわい)
定まらない自分の心が。
曖昧に傾く“三角”が。
*
そうして放課後はやって来てしまった。
「また明日」
エイジは鞄を肩にかけると
そう言って私に片手を上げる。
「あ、うん……。 じゃあね」
普通に笑ったつもりだったのに
頬は言うことをきかなかった。
「何でそんな元気ないんだよ」
エイジが掛けていた鞄を下ろし
自身の机に座る。
「……嫌なら、逃げればいいじゃん」
「嫌だなんてそんな筈────」
咄嗟に反論してしまってから
エイジの真剣な表情に思わず言葉が詰まった。
「────逃げちゃう? ……俺と」
冗談を言っているとは到底思えない彼に
戸惑いながらも拒めなかった。
(何で……)
ほんの少し前までなら
こうして差し出された手を
迷う隙もなく振り払えたのに。
隠さないと決めた“好き”に
自信がなくなってきた……。
─パシッ
エイジの手を振り払ったのは
間を割って入ってきたそらだった。
彼は冷たくエイジを睨む。
「何してんの?」
以前の二人の様子が反転したような感じだ。
「別に。 もう帰るし」
下ろした鞄を肩に掛け直し
エイジは机から立ち上がった。
そのまま振り向くことなく
歩いていってしまう。
「待っ……」
思わず呼び止め掛けて
慌てて口を噤んだ。
一瞬、ぴたりとその足が止まったが
それは本当に一瞬で、次の瞬間には、
エイジは教室を出て行ってしまっていた。
取り残された私たち。
吹き込む風がカーテンを揺らし
午後の陽が二人の影を作る。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年11月25日 1時