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「これ、ありがとう」
黒いマフラーの入った小さな紙袋を
朝、昇降口で会ったエイジに差し出す。
マフラーを貸していたことを
今 思い出したように
「あー」と言いながら受け取る彼。
「今日は私もしてきたから！」
そう言って、
首に巻いたふわふわの白いマフラーを
引っ張って見せる。
「俺のよりあったかそー」
エイジは笑って、
靴を履き替えると教室へと歩き出した。
その背中を見つめて
(……何か、変なエイジ)
と、一人、違和感を覚えるのだった。
あんな笑顔を浮かべるなんて。
「A、おはようー」
声と共に、ぽん、と優しく肩を叩かれる。
「お、おはよ！」
相手は、そら─────私の好きな人。
心臓がどきどきと煩く跳ねる。
動揺を隠すように笑って見せ、
二人並んで教室へ向かう。
「今日は一人なんだ？」
いつもは彼女と一緒なのに
今日は一人での登校らしい彼に尋ねる。
「うん、熱出したらしくて休むって……」
そらは“寂しい”と沈む心情を
隠そうともしないでそう言うのだった。
「あ……そう、なんだ」
もっと上手く返事が出来ればいいのに
傷つくばかりで、頬も強張る。
下手くそな作り笑いも今は出来なかった。
「だから今日は一日、俺に構ってね」
そらは覗き込むようにして言う。
冗談混じりの言葉なんだろうけれど
私は凄く嬉しかった。
「かまちょめ！
仕方ないから構ってやるよー」
緩む頬を抑えることも出来ないまま
少しだけ背伸びして
そらの髪をくしゃくしゃと撫でた。
「うわ！ てか俺、かまちょじゃねーし！」
そらは片方の手で自身の髪を整えながら
「仕返し」
と、悪戯っぽく笑って
空いた方の手で私の髪を撫でてきた。
「ちょっとー！」
くしゃくしゃに乱されたそれを直しながら
怒る振りをするけれど
次の瞬間にはもう笑っている。
それはきっと、相手が君だから─────。
たとえ届かなくてもいい。
叶わぬ想いだということは
痛いほど分かっている。
想うだけでいい。
ただ、君の姿が見られたら。
自然体で話すことが出来る、
笑顔を見せてくれる、
そんな“友だち”で、いいから。
結ばれることなんて望まない。
“その先”なんて夢見ない。
私は ただ─────、
ただ、好きなだけ だから。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年11月25日 1時
