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何と返せばいいのか咄嗟に言葉が浮かばなかった。
ずるい、とか汚い、とか言われて
“そんなことない”って自分では思っても
そう思わせてしまう要素は確かにあるわけで。
私が殺しを拒んだら、私以外の誰かは
確実に手を汚すことになる。
私が正義を貫いても、
それは誰かに悪を押し付ける行為なのだ。
「……」
反論出来ない。
幼なじみを守るために命を懸けたエイジくんに
私なんかが、何も言えない。
「村人が一人いなくなったら、
自分が死ぬ可能性も高くなるよ」
マホトくんがエイジくんに言った。
……いつだって、
無条件に私の味方でいてくれるマホトくん。
優しさが沁みて心が痛い。
「もっと理性的にならなきゃ」
「……こんなクソみたいな状況で
理性とか言ってんなよ」
彼に言葉を返したのは
エイジくんではなくトミーくんだった。
立ち止まったままだった私を
マホトくんが振り返り
ゆっくりとした歩調で二人、歩き出す。
何を話したわけでもないけれど
マホトくんといると何故だか凄く安心出来る。
廊下の突き当たりの窓まで来ると
スライド式のそれを開けて夜風に当たった。
と、背後で扉の開閉音が聞こえる。
カンタさんを部屋に運び終えたトミーくんが
私たちに気づいて歩み寄ってきた。
しばらく三人で黙ったまま、
吸い込まれそうなほど漆黒の夜空を眺めていたが
やがてトミーくんが踵を返し自室へ歩いて行った。
「私、」
頭の中にカンタさんの最期が蘇る。
「あの人のこと嫌いだったかも……」
じっとこちらを見つめていたマホトくんは
困ったように視線を逸らした。
「そんなこと────」
「それで、あの人のことを選んだ」
彼の声を遮る。今日ではなく初日の話だ。
深く考えず咄嗟に指したと思っていたけれど
頭の中では拒絶反応を起こしていたのかもしれない。
感情論であっても、
瞬間的な計算の上で指していたのかもしれない。
「……」
だからって、嫌いだからって、
死んでくれて良かったなんて思うわけがないし
私が彼を指してしまったことは紛れもない事実。
申し訳なくて、やっぱり恐ろしくて、
指先が小刻みに震えた。
脳裏に焼き付いた鮮明な記憶に怯え、
涙がこぼれてくる。
マホトくんはそれでも私を貶したりはしなかった。
何も言わず、優しく背中をさすってくれていた……。
「嫌悪感とか、嫉妬とか、
恨みとか、自己顕示欲とか……
そういうのは誰にだってあるよ」
撫でる手を止めないで彼は言う。
その手が暖かくて、また泣いてしまった。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2019年3月19日 9時
