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「助けて……助けてください……」
掠れた声ではじめくんが言う。
うわ言のように何度も繰り返し。
「家に帰りたい……」
その頬を涙が伝い落ちていく。
「殺せるって言ったよね……」
理沙さんがトミーくんを見やる。
トミーくんは答えずに床に視線を落とした。
「……助けてください……」
はじめくんの掠れた声は続く。
“死”に戦き果てた姿だ。
トミーくんが腰に手を当て、
天井付近を見上げる。
「犯人さんよぉ……絶対殺してやるからな！」
設置された監視カメラの向こうの
見えない敵に啖呵を切る。
「絶対に許さない」
カンタさんも同じ調子で強気に出た。
「そんなこと言ってる場合!?」
理沙さんが金切り声を上げる。
時計を見上げると、現在8時45分。
9時まではもう15分しかない。
15分以内に……はじめくんを殺す？
そんなこと、到底出来るとは思えない。
カンタさんも盆を置いた所までで
躊躇が生まれたのか
そこから動こうとしない。 他の人も同様に。
やっぱり出来ないんだよ、人を殺すなんて。
それにこんなこと間違ってる。
今ならまだ引き返せる。
これ以上進んではいけない。
「……」
どこか呆然としてしまい、
目の前のことにリアリティを感じられない。
まるで悪夢の中にいるような感覚のまま
何も出来ずに時が進んでいく。
と、エイジくんが突然屈んで
盆の上に載っていた手袋をはめた。
それから瓶の蓋を開けているのがぼんやり見える。
それを目にしたはじめくんが
勢いよく立ち上がり逃げようと駆け出したが
反射的に動いたトミーくんとマホトくんに
取り押さえられ、床に倒れ込んだ。
じたばたともがく彼を二人が押さえ、
後から理沙さんとカンタさんもそれに加わり
はじめくんは四人がかりの力で押さえつけられた。
「ずるいよ、自分たちだけ綺麗なままで！」
その傍ら、理沙さんが私たちの方に叫んだ。
しかし、動けなかった。 身体に力が入らない。
「潔く死ねよ！」
エイジくんが青酸カリを溶かした水を
はじめくんに無理矢理飲ませた。
「……う、っ」
近くにいた人が弾かれたように退く。
「……っ」
上手く酸素が吸えなくなった。
苦しい。 息が出来ない。
ふっ、と視界が暗くなって、
私は意識を手放した。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2019年3月19日 9時
