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シロエ自身思ってもみなかった応えだったのだろう。
フッと口角をあげて「…そうか」と呆れた表情で笑ったシロエは、手にしていた杖を大きく掲げた。
瞬間、ゴオッと灼熱の炎が螺旋を描くように空へと放たれる。
「ぎゃあぐああぁぁあぁ」
魔物の悲鳴が辺りに響き渡る。
騒ぎがあったからか、血の匂いを嗅ぎ付けてか、周囲には魔物の群れが集まっていた。
「僕が前衛を死守する。弟子が頑張っているのに、それを助けない師匠なんて嫌だからね！」
「…！、はい！」
あれからどれほど時間が経っただろう。
否、実際はほんの数十分に過ぎないのだが、Aもシロエもどっと疲れた顔をしていた。
騒々しかった辺りは平穏な空気に満ち、先程の出来事は嘘のようだった。
「A」
シロエに名前を呼ばれ、振り返ろうと立ち上がった時だった。
頭の上に温かな重みを感じ、Aはきょとんと瞬きを繰り返す。
「よく頑張ったね」
シロエはAの頭を優しく撫でた。
彼女の後ろには、先程まで痛々しかった2頭の馬がいる。
出血も治まり、傷ついていた脚も問題なく動かせそうだった。
頬を緩めて嬉しそうに笑うAを見て、安堵とは別に思わずシロエも笑みがこぼれる。
(こういうところは子供っぽいのに、ときどきすごいんだよな)
内心そんなことを考えていると、2頭の馬がAにすり寄ってくる。
「ふふ、くすぐったいってば」
「うん、もう大丈夫そうだね」
「はい！でも、すぐに走り回ったら傷が危ないから、今日1日は安静にね」
理解しているのか、ただ撫でられて嬉しかったのか、ブルルッと鳴いた。
Aは、鞄の中から鈴のついた赤と黄色が混じった紐を取り出すと、それを2頭の馬の脚に一つずつ結んでいく。
「これで1日は魔物に襲われる心配はありませんね」
《魔除けの鈴》という名前通り、魔物を寄せ付けない効果を持つアイテムである。
鈴のような見た目をしているが、音を発することはなく、虹色のような不思議な色をしている。
厳密にいえば、全く音が鳴らないのではなく、魔物にしか聞こえない不快な音を常に出しているのだと、彼女は云う。
(この世界にはなかった新しい道具。少しずつAはこの世界に影響を与えている…)
「シロエさん…？」
深刻そうな表情をしていたからか、Aは首を傾げてシロエの顔を覗き込んだ。
心配するAに、シロエは先程と同じように笑う。
「さて、そろそろ出発したいところだけど…その格好じゃあね」
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作者名：マナ | 作成日時：2020年1月12日 20時
