001 デルカダール王国 ページ2
こんな大事な日を忘れていた自分も悪いけれど、寝坊する彼もどうかと思う。
シロエと書かれたドアプレートの前に立ち、シンプルな焦げ茶色の扉をあければ、お世辞にも綺麗とはいえない部屋にため息をついた。
見渡す限り分厚い本の山が散乱している。足元にある本を踏まないよう歩みを進めた先には、まるで大福のようにシーツを頭の先までかぶったシロエであろう人物が、すぅすぅと安らかな寝息を立てていた。
「起きてください、シロエさんっ!」
力いっぱいシーツを剥ぎ取った瞬間、盛大な衝撃音とともに、いくつかバランスの悪い本の山がバサバサと落下した。
あまりにも痛そうな音に、おもわずギュッと目を閉じて、恐る恐る散乱した本の上に転がる彼を見た。
「いたた…A、ひどいじゃないか」
「す、すみません!そんなつもりは…」
寝ぐせの目立つ髪を掻き、目つきの悪い三白眼がさらに増している。
慌ててシロエの前に膝をつき、頭を打ってはいないかと心配をするAにギョッとした。
長く伸ばした黒い髪から鼻をくすぐる香りは、今朝湯あみをしたときのものだろう。
しかも、目の前にはお互いの息がかかる程の距離にいる端正な顔立ちの少女。
これは非常にまずい。シロエは本能的に感じ、一気に夢心地から覚醒する。
「だっ、大丈夫だよ。そ、それより、なにか用があったんだろう?」
「あ、はい。今日は、デルカダールへ行くと聞いていたので」
シロエはすぐにAから目線を外すと、けだるそうに腰を上げた。
「そうだったね。うん、じゃあ支度するよ。Aも準備しててくれ」
「わ、私も…ですか?」
自分の名前を呼ばれ、驚いた反応をする。
「不満かい?」
「い、いえ!そんなわけではっ!」
「少し長くなるかもしれない。いつもより十分な準備が必要だからね」
説明と呼べるほど中身のない内容に戸惑いながらも、笑顔で了承するのはいつもどおりだ。
いまだ薄っすら赤く染まる耳を隠すように頭を掻くシロエは、慣れた足取りで先程Aが通ってきた紙の山をを進んだ。
◆
「久しぶりなのに、なんだか懐かしい感じがします」
シロエの先を子供のようにはしゃぐAが歩く。
身支度を終えてやってきたデルカダール王国は、ロトゼタシアに存在する大小さまざまな国家の中でも、各地方を治める不動の強国と呼ばれた五大国のひとつである。
「ところでシロエさん、なぜデルカダールに来たのですか?」
「うん、まぁちょっとね」
8人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:マナ | 作成日時:2020年1月12日 20時