両片思いⅡ【Fischer's】 (ページ17)

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No.62 潮の香りに置いていかれて⑧ ページ17

You side

＿＿＿＿信じられない……。私今、シルクと…。

片手はシルクに包まれ、もう片方は地面の砂をぎゅっと掴む。

なんでシルク、急にこんな事…？

思考を働かせるほど酸素が足りなくなり、砂が付いたままの手で彼の肩を押す。固く閉じた目の端から涙が零れる感覚がして、押す力を強める。

“キス”なんて言葉にするのすら恥ずかしいが、そんなの一度もしたことがなかった。彼氏だっていたことない。手を繋ぐのだって本当は慣れてないし、さっきもすごく恥ずかしかった。

シルクに少しでも私を好きになって欲しくて頑張ってやってみたけど、何度やっても彼に触れるだけで緊張する。

ゆっくりシルクの唇は離れていき、酸素を求めて呼吸する。とめどなく涙は流れていき私の頬を濡らす。

＿＿＿ねぇ、このキスは、さっきの私の告白の返事だと思っていいの…？

荒い息を整えながらそっと目を開ければ、私の頬に手を添えたままのシルクが目を見開く。

『ふっ、はぁ…っ』

シ「っ…！わ、悪い…！そんなつもりじゃなくて！本当に、忘れてくれ……」

『は……っ、へ…？』

シ「身体が勝手に動いちまったっていうか…！マジでその…っ、キス、とか…する気無かったから…！ほんとにごめん…！」

何、それ…。“忘れてくれ”って、なんでよ……！忘れられるわけないじゃん、好きな人にキスされて…。

忘れるわけないし、忘れられないよ…。

『……いつも、いつもシルクはそうだよ…。私がシルクの事好きなの知ってるくせに、私が期待するようなことばっかりして…!!なのにすぐその期待裏切るの……っ！

……ねぇ、私がシルクのこと好きなの、これだけやってもまだ伝わってない……？』

シ「…………違っ、」

『…ごめん、こういう所だよね。付き合ってもないのに、こういうの面倒臭いよね……』

涙を拭う。手と頬に触れたシルクの手を外し、シルクから半歩遠ざかって立ち上がる。そしてなるべく明るい、いつもの声で、

『私、先に戻るね！おやすみなさい！』

宿への道を急ぐ。後ろからシルクの引き止める声が聞こえたが、聞かなかったふりをして。

1人で歩く道は寂しく、さっきの事が頭から離れない所為で涙がまた溢れる。

宿に着いても涙は止まらず。人目を気にする余裕もなく、急いで自分の部屋に戻った。こんな泣き顔をみんなに見せられるわけもなく、お風呂に入ってその日は布団に入った。

ベッドの中で声を殺して。